あなたはゴリラですか?【読みたいことを、書けばいい。】
中学卒業と同時に単身上京、寂しさを紛らわすかのように毎週上野動物園でゴリラを観察した若者がかつていた。その若者はそのゴリラの風貌に一目惚れしたと云う。アフリカで生まれ日本に渡ってきたゴリラ、遠くを見つめるその目は憂いを帯びていたし、寡黙に過ごすその姿には哀愁があったのだとか。ゴリラを観察し続けたその若者はいつしか誰もが知る名優『西田敏行』となった。
対して、人間であるにもかかわらず『あなたはゴリラですか?』の質問にとりあえずYESと答えてしまった若者は青年失業家『田中泰延』になったと云う。
ちなみにチンパンジーに育てられ、ゴリラに格闘技を習った少年は『ジャングルの王者ターちゃん』になったし、ゴリラの様に寡黙な父を「なんだかゴリラみたいだな」と思いながら過ごした日々は私を私として形作った。
そう考えていくうちに私の脳裏には『人は皆必ずゴリラを経てから人として生を歩み始めるのかもしれない。』と、命題とも云うべき仮定が浮かび上がった。鳥肌が立った。うん、きっとそうだ。いや、そうに違いない。そう思ったのも束の間、冷静になると同時に3秒くらいの思考で破綻している論理だと諦めてしまった。私はチンケな人間である。しかし世の中は広い。ある日の気付きを3秒で破綻させずに7万7千文字に冗長させて文章にしてくれる人がいるのだ。
田中泰延その人である。私はいつも敬愛を込めて「ひろのぶさん」とお呼びしている。もしかして気安く呼び過ぎだろうか。著書の中で泰延をひろのぶと読めとは言ったが呼べとは言っていないという記述をお見かけしたが、そんなことは些細なこととして水に流してほしい。
ここに一冊の本がある。
この本を心待ちにしていた人たちが居る。
ここが大切だ。
おそらくひろのぶさんが書いてくれるなら多少のタイムオーバーをも厭わないと言ってはばからない人たちが山ほど居ただろう。
それでも予定通りに遅れることなく本になった。
『読みたいことを、書けばいい。』著者:田中泰延
2019年6月12日第一刷発行、ダイヤモンド社
この本は間に合った本である。
届くべき人に間に合った。
ひろのぶさんのお兄さんに間に合った。
医師から宣告された余命を締め切りを破るかのごとく生き延び、
2019年6月14日
病床でそのお兄さんが手に取ったと言うのだから間違いなく間に合った本なのだと思う。
私の手元に来るまでは少し時間が掛かったが、そんなことはこの事実に比べればどうでもよいことである。なんぼでも待ちますという気持ちだった。
そして土曜日の晩に私の手元にやってきた。
途端に寂しい気持ちになった。なぜなら読んでしまったらこれまでの待つ時間とはお別れだからである。
でも読まないという選択肢はない訳だから、ページを捲った。するとのっけから『あなたはゴリラですか』ときたのである。この本をまだ読んでいない方には何のことだか分からないでしょうね。まず分かるためには購入することが大切だとでも言っておきましょうか。
なんにせよ、私は笑った。
そしてこの本を読み終える頃、私に新しい待ち時間ができた。同じ本を読んだ方とお話したいと思った。その人を待つ時間だ。それはとても幸せな時間だ。同じくこのひろのぶさんの著書を読まれた方に出会ったなら、私は合言葉のように問い掛けたい。
「あなたはゴリラですか」と