クラシック音楽に必要なのは、伝統か革新か?水野蒼生さん @Aoi_Mizuno の「BEETHOVEN -Must It Be? It Still Must Be-」を聴く
こんばんは。名古屋クラシック音楽堂(@nagoyaclassicca)です。今日は、クラシカルDJとして、ベートーヴェン生誕250周年に合わせたスペシャルティコーヒー専門店「丸山珈琲」とのコラボが話題の水野蒼生さん(@Aoi_MIzuno)が今年3月にリリースしたセカンドアルバム「BEETHOVEN -Must It Be? It still must be-」を取り上げます。
水野蒼生:「BEETHOVEN -Must It Be? It still must be-」をまずは聴いてみよう
巨匠カラヤンを輩出したザルツブルクの音楽大学の指揮科を首席で卒業した水野蒼生が、交響曲第5番≪運命≫を“もしベートーヴェンが今この曲を演奏したら、どうなるだろう?”というコンセプトのもと、エレキの弦楽四重奏(ヴァイオリン×2、ヴィオラ、チェロ)とドラム、ベース、シンセサイザー、そしてマニピュレーターのバンド編成を率いてレコーディング。
難聴に悩むベートーヴェンがハイリゲンシュタットの遺書を書く前後の作品を混ぜ合わせることで、彼の初期の作風を表現。さらに、交響曲第5番の後には、前作「MILLENNIALS -We Will Classic You-」でのクラシカル・ミックスをベートーヴェンの後期の作品に焦点を当てて表現。
アルバム全体を通してベートーヴェンの生涯、作風の変化を楽しめるような真の意味でのベートーヴェン・トリビュートアルバム。
聴かれましたか?いかがでしたか?
中心となるのは、ベートーヴェンが1808年に作曲した交響曲第5番「運命」冒頭の「ジャジャジャジャーン」で有名なあの曲です。
アルバムとしては、4つの楽章のリミックスと、1曲目の序曲のような「1802-Mix」、途中に挟まれる2つの間奏曲。そして、第4楽章のあとの後奏曲のような「It Still Must Be-Mix」という面白い曲構成になっています。
1曲目「1802-Mix」はどんな曲でベートーヴェンの何を現しているのか。
冒頭、ピアノ・ソナタ第14番「月光」(1801年)のフレーズから始まり、ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」(1799年)、交響曲第3番「英雄」(1803年)をマッシュアップした作品
タイトルの1802とは、ベートーヴェンはウィーン郊外の保養地ハイリゲンシュタットで、1802年に「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる手紙が書かれた年。
1802年にはピアノ・ソナタ第14番「月光」を献呈した、当時のピアノの弟子だったジュリエッタ・グイチャルディへの恋は破局。さらに以前から兆候のあった難聴が進行し音楽家として絶望している様が家族に向けて遺書として綴られています。
この曲を通して、ベートーヴェンの初期の作風をおさらいしている感じ。
最後の後奏曲的な「It Still Must Be-Mix」は、どんな内容か。
こちらは、ベートーヴェンが亡くなる5か月前。1826年に作曲した最後の弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調の自筆譜に書かれた「Muss es sein」というドイツ語に由来しています。これは「かくあらねばならぬか?」「かくあるべし」という意味。
後期の作品に焦点を当てて表現されています。
このアルバムは伝統と革新が詰まってる
さて、クラシック音楽というと、あまり馴染みのない人には古臭い音楽だという人もいるかもしれない。実際、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」が世に出てから、212年も経っている。
でも逆にいえば、200年以上前に作曲された曲が、クラシック音楽業界という狭い業界の中では、年間演奏回数が常に上位にあるというのもある意味すごいこと。200年間消えてなくならなかった曲ですから。
この200年間、世界中のオーケストラがこの曲を連綿と演奏し続けてきたからこそ残っている伝統としての存在。
そして今回のアルバムは交響曲第5番「運命」を挟んだ2曲で、ベートーヴェンの初期と晩年の曲を紹介して、ベートーヴェンの作曲家人生や作風を振り返るいわゆる革新的なキュレーションアルバムなんじゃないかと思います。
そして、この記事タイトルにした「クラシック音楽に必要なのは、伝統か革新か?」という問いに対して、僕なりの答えはある。
それは、200年以上にわたって世界中のクラシック音楽を魅了したものは、伝統の年輪のような積み重ねであって、現代に生きる僕らは、クラシック音楽の聴き方に新たな挑戦が必要なんじゃないかと。
クラシック音楽ブームが起こると、初心者向けに「クラシック音楽ベスト100」のような関連のない様々な作曲家の名曲をサビ部分だけ集めたごった煮のようなアルバムがでるけど、本当に必要なのは、ある作曲家の人生の変遷を辿ることができるこのアルバムのような存在なんじゃないかと思うのです。
聴き方、聴かせ方に革新を!そんな意気込みをこのアルバムには感じるものがあります。
最適解かどうかは別として。あなたはどう思いますか?皆さまのご意見も聞いてみたいところです。
ダンサーの木村仁美さんとともにアーティスティックに表現した3分ほどのMVは、ロック風にアレンジされたベートーヴェン。
水野蒼生さんのnoteには、今回のアルバムのブックレットから前文が公開されています。「いちばん好きな作曲家は誰ですか?」というクダリが好きです。ぜひ読んでみてください。
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