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最も残酷な助かり方


私は間違えてしまったのでしょうか。
愛する娘の、育て方を。

生まれた頃から本当に可愛くて。
一人娘だったから余計、旦那と私で可愛がった。
欲しいと言ったものは全部買い与えて、可愛い服を着せて。
それはそれはとてもいい子に育ったの。

お友達も沢山いて、毎日幸せそうに笑う娘。
中学2年生になってからもずっとニコニコ可愛い、私の自慢の娘。

だから間違えたなんて、思いたくないの。

私は今、娘と出かけていて車に跳ねられてしまった。
あの蛇行の仕方は、きっと酔っ払い運転か何か。
歩道に突っ込んできた車に、私だけが跳ねられた。

全身が、痛い。

声も、全然出ない。

目を開けると、うっすらぼやけてはいるが、娘が見えた。

「110番を…救急車を…」

振り絞って出したその声は周りの誰にも届かない。
娘を囲む人は皆、恐らく私にスマホのカメラを向けている。
シャッターの音が沢山聞こえるから。

ようやく娘がハッキリ見えてきた頃、
私は、驚愕した。

どうして娘も、私にスマホを向けているのだろう。

「…お母さんが轢かれてしまいました。誰か助けてください。拡散希望」

娘はそう言いながら震えてスマホをいじっている。
違うでしょ…、そうじゃないでしょう…
私の思いは声にならず消える。

「君、娘さんかい!?まずは警察に連絡しないと!!」

近くにいた親切な男性が娘に声をかけた。

そう、まずは警察に…。
私は少し安心したがそれもつかの間、

「警察…!?警察何番でしたっけ…皆に聞かないと…」

娘はまたスマホをいじり出し、チャットアプリを開いた。

「警察は110番だよ!僕は今携帯を持っていないから、貸して、電話してあげる」

親切な男性が娘から携帯を取ろうとすると、娘はそれを拒否した。

「やめて!いま皆に聞いてるから!!みんなが助けてくれるから大丈夫です!!」

男性も私も、呆気に取られてしまう程の剣幕で怒った娘。

「あ!きた!警察に…通報してくれたって!良かった!位置情報つけておいて良かった~!」

娘が私に駆け寄ってくる。

「お母さん、大丈夫だから、大丈夫だからね。みんなが助けてくれるから。絶対助かるから!」

娘のその言葉に私は涙が出た。
ただそれは、嬉しかったからではない、安心したからでもない。
心の底から、情けなくて涙が止まらなかった。
全身の痛みよりも、胸の奥の何かがずっと痛かった。

「お母さん…!頑張って!」

娘の涙ながらの声の裏で、まだ聞こえるシャッター音。
ガヤが増えてきたようで、ざわつきが酷くなる。
遠くから聞こえるサイレンの音。救急隊が来たようだ。

「下がってください、下がってください!」

ガヤが下げられる。
救急隊が担架を持ってやってくる。
私は全身の痛みと涙と、謎の痛みでもう声が出せる状態では無かった。
呼吸をするのも、とても辛い。

娘が
「良かった…!お母さんを助けて下さい」
とこれも涙ながらに隊員に言う。

意識が遠のく。

ねぇ、私は間違えてしまったのでしょうか。
愛する娘の、育て方を。

ねぇ、どうして

どうして、1番愛している「あなた」が、
私を助けてくれないの?







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