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心がぽかぽかする、絵本を作りたくて

「コハク、降りて!家に帰るよ!」

私は家から脱走してしまい、庭の柿の木に登っている愛猫のコハクを見上げ、呼び戻そうと叫んでいました。

7年前、わが家はゆるく介護が必要になった母、姉、私の3人と猫たち2匹の家族。母には癌に由来するせん妄の症状が現れていましたが、なぜか検査で癌は見つからず……。コハクは母の心の支えになることを期待して、この1年ほど前に迎え入れた猫です。

自営業の姉は、私の留守中に母の介護をがんばってくれていましたが、仕事で不在の日が多く、そもそも母のお世話があまり得意ではなかったようです。つじつまが合わない母の話に「何度も言ってるでしょ!」と大声で訂正することもあり、母はその度に小さい声で「ごめんなさい」を繰り返す……。そんな様子に胸がギュッと痛くなっていました。

私は通勤に片道約1時間かかるフルタイムの仕事を続けながら、家に帰ると母と猫のお世話をし、休日には掃除や洗濯などの家事に専念する日々でした。かつて5人で暮らしていた家と庭は大きく、手入れに時間がかかるのです。

(時間がない……。でも、外は危ないから早くコハクを家に入れないと)

しかし彼は、木に駆け上っては振り返るという動きを繰り返し、追いかけっこしようと私を誘います。そして私が手を伸ばしても届かないとわかると、木の上でゆうゆうと気持ちよさそうに鳥を眺めているのです。

高いところが大好きなコハクくん これは冷蔵庫の上

目がキラキラ輝いて、野性を取り戻している姿がまぶしい!
(お話の中だけでも、コハクが自由に外の世界を満喫できるといいな)

猫を見ていると童話のような話を思いつき、その日の夜、猫のイラスト付きでノートに物語の始まり部分を書きました。遊び半分の思いつき。駄作だなぁと思いながらすぐに寝たのですが、朝になり、びっくりして飛び起きました。

家が火事になっている!という夢を見たからです。一般的に火事の夢は吉夢といわれています。

(きっとこれは、続けた方がいいことなんだ!)

けれども、目の前にあるのは下手な絵と文章。これを元に絵本を作るなんて、現実的に思えません。私は絵と文章、どちらも専門的に学んだ経験がほぼなく、しかも話は序盤までしかできていないのです。

(そもそも、絵本ってどうやって作るのかな)

ネットで検索すると、たくさん情報がでてきました。

私はまず本から学ぶことにしました。何冊も本を読む中で、大切なことがわかります。

絵本は、ゆっくり時間をかけてやっと完成する。

荒井良二氏をはじめとして多くのベテラン作家が、急がないことの大切さを語っていました。

子どもの「心持ち」

絵本作りの本の中で私が特に気に入ったのは、『絵本をつくりたい人へ』という本です。

「読者は4歳から6歳くらいの子どもということを忘れないで」
「やっとお話の世界に入ってきてくれた人たちであるのだから」
ワークショップでは、僕はこのことを何度も何度もいいます。できれば、あなた自身が、その頃の自分を思い出してほしいのです。心持ちっていえば良いのかな?

土井章史『絵本をつくりたい人へ』株式会社玄光社,2014

私は子どもの頃の自分を、思い返しました。

  • 犬や猫たちのそばにいると、心がぽかぽかして安心できたこと。

  • 病気がちな幼少期、物語の世界とどうぶつたちに癒されて、寂しくなかったこと。

  • 小学生のころファンタジーを思いつき、夏休みの自由課題として童話を提出したら、先生に驚かれたこと。

(もし、またお話を作るとしたら、どうぶつが出てくるワクワクするものにしよう)

母の病状が心配で、気が重くなりがちでした。しかし、子どもの心持ちを思い出すと、自分自身が励まされているようで、誰かを勇気づけたい気持ちが芽生えてきました。

ゆうゆう絵本講座を受講

2019年7月、激しい血尿により母の持病である膀胱がんの再発が発覚しました。すでにステージ4で完治できず、目の前が真っ暗に……。その後も在宅医療を続けましたが、出血がひどく、度々病院へ搬送しなければなりませんでした。

同じ時期にわが家の猫、くるみが出産。家の中は騒然としていましたが、猫たちの懸命な子育て姿には勇気をもらえていました。

私はすでに退職していましたが、当分仕事に就けないとわかり、やっと絵本を本格的に学ぶ決心をします。最初に絵本を思いついた時から、2年経っていました。

通信教育で「ゆうゆう絵本講座」の絵本入門を受講。特にアイデアの出し方を教えていただきました。いわゆる3題噺のやり方で作ったお話を課題として提出したところ、「いやぁ!おもしろかったですね!」というお返事をいただきました。

受講終了後、これを元に初めて本格的な31頁の絵本づくりに挑戦することになります。「おちゃの じかんは アンも いっしょ!」という猫が主役の絵本です。

主人公「アン」のモデルになったわが家のアンちゃん

専門学校の通信教育を受講

2020年7月から大阪総合デザイン専門学校の通信教育を受講しました。説明口調になりがちな自分の文章が、先生の添削でやわらかく変わることに毎回ドキドキしたものです。

先生からの私の評価は、初めA~DのBが多かったのですが、次第にAに変わり、「なんといってもあたたかい雰囲気が魅力」というありがたい言葉をいただきました。今でも私の励みになっています。

そんな私が絵本作りに没頭する中で、母は2020年10月に他界してしまいました。母に完成した作品を見せられなかったことが、今でも心残りです。

パステル画に挑戦

私は31頁の絵本、「おちゃの じかんは アンも いっしょ!」をパステル画で描くことにしました。パステル画はふんわりした雰囲気が気に入っていて、小さい画面で描くときには難しく感じていなかったのです。

しかし、A3ほどの大きな画面では大変さが違いました。描き続けるうちに画面が汚れてしまいます。細かい部分も描きにくく、その結果、時間がとてつもなくかかりました。さらに、出来上がったと思った頃、修正したい部分が見つかるので、困ったものです。

修正したい部分がみつかり、完成できていない絵本の一部分

パステル画より早くきれいに描ける画材を探している時でした。絵本雑誌「MOE」に掲載されたMOE創作絵本グランプリの受賞作品を見ると、思っていた以上にデジタルで作られた作品が……。デジタルでの作画に挑戦してみたい、という気持ちが湧き上がってきました。

そこでパステル画の絵本は保留し、2作目の制作にとりかかりました。専門学校で作ったお話が元で、やんちゃなこぎつねが主人公です。昔話風でしたが、今風に変え、ハッピーエンドにしました。

CLIP STUDIO PAINT

CLIP STUDIO PAINTとは、主にマンガの制作で使われているソフトですが、水彩画風やパステル画風にも描けるところが気に入り、これで描くことに決定。

姉に描いたものを見せると「えぇ!これ、自分で描いたの?」と驚かれました。自然な仕上がりに心が弾みます。

絵本コンテストに応募

こぎつねの絵本で、MOE創作絵本グランプリに応募することを検討しました。締切日の3日前の夜、完成間際にある作品を姉に見せることに。姉は子どもたちと接する機会が多く、その反応についても詳しいので、意見をもらいたかったのです。

パソコンの画面に絵本を表示し、私は文章を読んでいきました。読み終わると、姉が眠そうな目で言いました。

「このきつねの動きについていけない……」

「それは、やんちゃなきつねだから……」と説明したものの、

「動機が不十分。そもそも人間を怖がっている設定で、なんでこんなことやってるの?動機付けが不十分だから共感できないんだよ」

その言葉にハッとしました。急いで1画面目に動機を描き、修正。なんとか締切に合わせることができました。

CLIP STUDIO PAINTで描いたこぎつね

私の挑戦はまだ始まったばかり。これからもっと、子どもたちの心をぽかぽかあたたかくできる作品を描いていきたいと思っています。

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絵本を作るきっかけになったぼく(コハク)のお話は、
絵本には長すぎるから、童話にするんだって!
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母アンナ
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