【映画感想文】まさかのテクノポップ! まさかのテルミン! まさかのクリスチャン! 懐かしいのに新しい令和の青春バンドムービー - 『きみの色』監督:山田尚子
山田尚子監督の最新作が凄かった!
予告編を見たときは「得意な青春バンドものなんだ」ぐらいにしか思っていなかったけれど、実際に鑑賞してみて、これまでにない新しい要素がいっぱいで最高に楽しかった!
まず、少年少女が巡り合い、ロックバンドを組み分けだけど、演奏する楽曲がまさかのテクノポップなのだ。しかも音楽大好き少年の類くんが担当する楽器はテルミン。みんな、それを特殊なものとして認識しているわけではなく、当たり前のように受け入れているナチュラルさがとてもよかった。
高校生がロックバンドを結成し、ゆるく成長していくアニメは山田尚子監督の『けいおん!』を筆頭に様々な名作が作られてきたけれど、こういう座組みは初めてなのではなかろうか。めちゃくちゃ斬新な絵面とサウンドだった。
物語的にも長崎が舞台で、クリスチャンの学校が深く関与してくるあたりも面白かった。主人公が迷ったとき、聖書だったり、神学者だったりの言葉がヒントになっていく。
特に印象的だったのはラインホールド・ニーバーによる祈りの一節。
変えることのできるもの。変えることのできないもの。その違いがわからなくって、若いときって苦しかったんだよなぁって懐かしくなった。
もちろん、いまだって、ちゃんと識別ができているわけじゃないし、わかったとして、勇気も冷静さも持っていなかったりするんだけど、ただ、世の中はそういうものだという経験だけは積んできた。それがなかった高校生の頃は自分だけ無力なんじゃないかと悲しくなって、やたら途方に暮れていた気がする。
青春バンドの原動力って、たぶん、そういう途方のなさから脱出したいという悪あがき。とりあえず、なにかやらなきゃいけなくて、意味のない失敗もするけれど、これは意味があるという貴重な確信をつかむこともできる。
そういう意味では大槻ケンヂの小説『グミ・チョコレート・パイン』を思い出した。
テイストは全然違うけどね笑
大槻ケンヂは下ネタ満載、ルサンチマンぷんぷん、自意識の十二単を着ているようなモテない男子の叫びだった。それに対し、『きみの色』はパステルカラーで爽やかな友情が心地よいわけで、表面的には似ても似つかない。
でも、登場人物がそれぞれの立場で変えることのできるもの・変えることのできないものに音楽を通して向き合っていく展開が共通しているように感じた。
だから、大槻ケンヂは80年代にパンクロックを選んだんだと思う。それが当時の「俺らでも革命を起こせる」実感を伴ったジャンルだったから。じゃあ、2020年代、同じことをしようと思ったら、どういうジャンルが考えられるのか。その体に対する山田尚子監督なりの答えがテクノポップだったのではなかろうか。
実際、DTMにはそういう夢があると思う。もし、いま、自分が高校生で音楽を始めるとなったら、きっとDTMに挑戦しているはずで、その先に世界とつながれるかもしれないと胸をときめかせているはずだ。
作中、そのことを象徴するように、TikTokのショート動画風のPVを撮影するシーンがあったし、書き下ろしのアニメーションが広報用にアップされてもいる。
こういうひとつひとつがいまっぽくて可愛い。たぶん、とことん、いまの高校生が日々の虚しさを突破するにはどうするか? という視点に貫かれていた。
そのため、メンバー同士で喧嘩したり、嫉妬したり、大人たちとぶつかるようなスポ根展開はなく、それがよかった。みんな、自宅で一人でしっかり練習に励んでいた。孤独にコツコツ取り組んで、好きなものを追求した結果をシェアしていく。そういう真面目な創作活動のあり方に令和っぽさを感じた。
そうじゃなかったら、テルミンが許容されることはないだろう。ギターと電子ピアノとテルミンって、どう考えてもバンドの定番からはズレている。でも、誰もおかしいとは言わない。そういうものとして自然に受け入れている。その楽器、素敵な音だねって。
互いにリスペクトがある。故に、心の内側を不躾に尋ねたりしない。悩んでいるように見えたら、「どうしたの?」と声をかけるけど、「話したくなかったら話さなくてもいいからね」の一言を忘れない。性に関する余計な話をすることもない。音楽が好きってだけで仲良くなれるという当たり前が描かれていた。
その上でオリジナルソングがハンパなくいい。予告編などでも使われている『水金地火木土天アーメン』が中毒性あり過ぎて、リピートしまくっている。
また、映画として面白い構成だなぁって思ったのは、こんな強い劇中歌があるのに主題歌はMr.Childrenが担当していること。これはちゃっとメタ的な演出になっていて、観客をあえて作品世界に没入させない効果があった。
アニメーションの世界は夢を見ているようなもの。映画が終わったことで、作中の登場人物たちと同様、いつまでも夢を見ていられるわけではないとわたしたちは認識しなきゃいけない。でも、夢から覚めた現実を彩るのはミスチルなわけで、これはこれで悪くないよねって希望が炸裂していた。
このあたりの仕掛けも相当に巧みだった。というか、全編、そういうものであふれていた。いいものを見たという多幸感でいっぱいになりながら、劇場を後にした。
新宿駅に向かって歩きながら、耳に流れる歌舞伎町の環境音がカラフルに感じられた。そして、自分は何色なんだろうと考えながら、これから何色の列車に乗ろうかと迷ってみた。これから、どこへ行こうとわたしの自由なんだもの。
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