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【ショートショート】マスコミ就職読本2019 (943文字)

 スタバで読書をしていたら、隣に座った三十歳過ぎと思しきジャージ姿の男性が「マスコミ就職読本2019」を真剣に読み込んでいて、すごく気になった。

 もしかして、いまが2025年であるということに気がついていないのではなかろうか?

 マスコミを志望する人間として、トレンドを追う姿勢がないのは致命的。よりにもよってコロナ禍前の情報って。どうせダメなやつなんだろうなぁ、向いてないんだろうなぁと俺は腹の中で笑いつつ、いいネタが見つかったとすぐにXでつぶやいた。

 密かにバズるかもしれないと期待していた。でも、さすがに盗み撮りをするわけにはいかないし、インパクトがちょっと弱いかなぁと思うなどしながら読書を続けた。

 だから、スマホに通知があったとき、てっきり例のつぶやきが拡散されているのだろうとほくそ笑んでていた。

 さてさて。どんな反応があったのか。ワクワクしながら開いてみるもリポストやいいねではなく、リプのおしらせだった。

 まぁ、これもけっこう嬉しい。自分と同じ感性の人がいるというだけでグッとくるものがある。たぶん、フォロワーだけど、FF外からもコメントが来たりするので、ちゃんと見られているんだなぁって改めてインターネットが世界につながっていることを実感できる。

 とりあえず、どんな風にメッセージがきているのか、チェックするためアプリを立ち上げたところ、一瞬、そこに書いてある言葉の意味がわからなくって、俺は固まってしまった。

「もしかして隣の人ですか?」

 リプを送ってきた見知らぬアカウントのプロフィール写真には見知った「マスコミ就職読本2019」の表紙が鎮座ましましていた。

 隣の席から視線を感じた。ゼエゼエという荒い呼吸音も聞こえてきた。もはやどうすることもできなくて、何事もなかったかのようにスマホをポケットにしまって、何事もなかったかのように読書を再開させたけれど、徐々に、ゼエゼエが近づいてきて、さっきから耳に生暖かい息が当たっている。

 なるほど、失敗してしまった人間をこれだけネチッこく追い込めるんだとすれば、こいつはマスコミに向いてるのかもしれない。そんなことを思いながら、俺はずっと読んできた本の結末をぼーっと眺め、いつまでも終わってほしくないと切に願っているのだった。

(了)




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