【料理エッセイ】浅草花やしきで最強にうまいポテトこと「ラスポテト」を食べてきた
先日、東京23区役所のカレーをぜんぶ食べるという企画をやってみた。
その中で区役所に行っては見たけれど、食堂がなくなっている区が5つあり、墨田区もそのひとつだった。浅草駅の近くなので、こうなってしまうと真っ直ぐ帰るのなんだかなぁという感じで、結局、いろいろと観光してきた。
ただ、インバウンドやら修学旅行やらが凄いことになっていて、雷門のあたりはしっちゃかめっちゃかでどうすることもできなくて、結局、浅草で仕事があるときにランチをしているモンブランのハンバーグで空腹を満たすことにした。
安くて、早くて、うまいがモットーな洋食屋さんで、まるで牛丼屋さんみたいだけど、優雅な気持ちになれるので個人的にはけっこうお気に入り。なにせ、注文して数分後には熱々のハンバーグが目の前にやってくる。そのため、外に行列ができてきても、思いのほかすぐに案内してもらえるため、時間がないときにも助かる。
観光で盛り上がっているのは嬉しいけれど、本当、人気のお店はどこも混んでしまって簡単には入らなくなってしまった。たまに空いているお店があると思ったら、神戸牛を数万円で提供するようなインバウンド系で、中にはお金を持っていそうな外国人がずらり。なにを食べればいいのか、迷ってしまうこともしばしば。
そんなとき、モンブランが頼りになる。
たまたまひとつ後ろのお客さんが修学旅行で来ている中学校の先生だったんだけど、その方も似たようなことを言っていた。
「むかしから中三を担当するたび、浅草に来ているけど、いつもここに来ちゃうんですよねえ。安いし、早いし、なにより美味しいし」
考えてみれば、多くの人にとって修学旅行って、小中高の合わせて3回がほとんどだけど、教員になったら繰り返し行くものだという当たり前の事実がなんとなく面白かった。先生は先生なりに楽しもうとしているし、効率よく動くために必要な定番があるんだなぁ、と。
吉野家も築地の仲買人さんたちが忙しい合間にご飯を食べる場所だったから、安い、早い、うまいが重要だったという。モンブランも浅草のプロたちのための食堂みたいな役割を果たしているのかも。
お会計を済ませ、表通りを混んでいるから、裏道をテクテクと散歩してみた。人のいない方へ、いない方へと彷徨い続けているうちに花やしきの出口に辿り着いていた。
これまでも花やしきの前までは来たことがあったけれど、入場料を払ってまで入るのもなぁと躊躇してきた。ただ、そうやっていつか行くだろうで後回しにしてきた施設やお店がコロナ禍でどんどんなくなる経験をしてきたために、もしや、いまはチャンスなのでは! とビビッとくるものがあった。
どういう仕組みになっているのかわからないまま、とりあえず中に入ってみた。小さな空間を縦にうまいこと活用し、すぐそこにビルがある狭いスペースにこれでもかと遊園地が詰め込まれていて圧巻だった。
ちなみにこち亀の大ファンで全巻持っているわたしにとって、花やしきは漫画の中で何度も登場していた聖地なんだけど、いかんせん、なにがなにやらわからなかった。たしか、両さんが花やしきのジェットコースターはすぐそこに民家があり、洗濯物に手が届くと言っていたなぁ、なんてことを思い出しながら、乗り物券を購入。待機列に並んでみた。
結果、さすがに手が届くところに洗濯物はなかったけれど、近くの雑居ビルの屋上に洋服が干してはあった笑 きっと昭和の頃は普通の住宅が残っていて、窓のところにいろいろかけていたんだろなぁま東京の原風景が想像できた。
ちなみにジェットコースター自体はおもちゃみたいなんだけど、想像以上にスピードが出るし、落差もあるし、みんな、きゃーと叫んでいた。充分スリルを味わえる。子どもたちの絶叫デビューにはもってこいだと思う。
全体的に子ども向けのようで、全体的にゆるめのアトラクションが多く、子育て世代がのんびり過ごせる場所になっていた。
びっくりしたのは園内をスマホを持った子どもたちが駆け回っていることで、みんな、同じ端末を持っているのでなんだろうと不思議がっていたら、「摩訶不思議!?君もスクープカメラマン」という新アトラクションなんだという。
配られたスマホで園内の至るところに設置されたパネルを撮影すると、ARで妖怪が浮かび上がってくるというもので、新たに大規模な装置を導入することなくコンテンツを増やしていて、すごい工夫だなぁと感心してしまった。子どもたちもめちゃくちゃ楽しそうだし、アイディアの勝利だった。
そんな風にいろいろと散策していたら、売店にラスポテトと書いてあったので、思わず、足が止まってしまった。
ご存知だろうか?
ラスポテトとはお祭りの屋台やデパートのフードコートなんかでたまに売っている最強に美味しいポテトのことだ。ラスというのは商標で、粉末状になったジャガイモの粉を成形し、絞り機を使って細長くしたものを揚げた商品なんだけど、サクモチの食感が独特でクセになる。
かつてはそこら中で食べれたけれど、年々、量が減っていて、ウィキペディアの記事には、
と、あるように幻の存在になりつつある。
なのに、まさかの花やしきで普通に食べられるとは! もちろん、迷わず購入した。
マヨネーズをつけると+100円だったので、明らかに高いと迷ったけれど、せっかくだしとつけてみた。でも、席に座って冷静になってみれば、要らなかったんじゃないか……と後悔に襲われた。遊園地マジックってやつだね。たしかに美味しいんだけどさ。
一応、帰る前に園内を隅々まで歩いてみたところ、花やしきの来歴が書いてあるものを見つけた。
もともとは江戸時代に有力な造園師「百花園」として作った庭園で、宮様の許可で「花屋敷」と呼ぶことを許されたんだとか。その後、明治維新で浅草公園地の改正があり、動物園のような形で庶民の憩いの場になっていたという。ところが戦争で閉鎖。戦後、復活するにあたって現在のような遊園地スタイルになったそうだ。
言われてみれば、遊園地なのにどうして「花やしき」なのだろうと疑問だった。その答えがわかってよかった。
また、そういう歴史を知ってから園内を眺めてみると所々に当時の名残が見つかった。歴史を学ぶ重要性ってこういうことだよね。目の前の光景が違ったものとして見えてくる。その広がりで現在が豊かになる的な。
あと端っこのビルの端っこの屋上に創立者の銅像があって謙虚だなぁと思った。もっとこう前面に出てきてもいいけど、後方から見守っている雰囲気は好感を持てた。しかも、その近くに謎の巨大おっぱいもあって、カオスさが素晴らしかった。
しかし、すごいよね。こんな場所にこんな遊園地を作っちゃったんだもんね。上から全体を見下ろすと情報量の多さにクラクラしてくる。
かつて、安部公房は「小説は無限の情報を盛る器」であると言った。たしかNHKのアーカイブスで見たんだと思う。
その中で安部公房は航空写真を例にして、簡単に見るだけだとこの道がどうだとか、大したことしかわからないけれど、その気になれば際限なく読み込むことができるというのだ。それこそ4Kから8Kとデジタルの解像度が上がるにつれ、この道を歩いている人の着ている服の隙間にいる虫の表面についた細菌の……とどこまでも情報を掘り出すことは可能になる。そして、そういう無限の情報を含んでいるものが小説であり、読もうと思えばどこまでも読んでいけなくてはいけないのだという。
さて、そういう意味において花やしきは小説なのかもしれない。なんて適当なことを考えながら、最強に美味しいポテトをラムネで胃の腑に流し込んだ。
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