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【映画感想文】分断の時代だからこそ、わかり合えないをわかり合う映画を見よう - 『タレンタイム〜優しい歌』監督: ヤスミン・アフマド

 YouTubeで気になる予告編が流れてきた。『タレンタイム』という伝説のマレーシア映画らしい。

 タレンタイムというのは音楽コンクールのことみたいで、学生たちが自分の才能を競い合う話っぽい。だけど、別に少年ジャンプにありそうなバチバチな戦いではなくて、ゆったりとした文化祭のような雰囲気で、優しい空気が流れている。

 これまでマレーシアの映画って、一本も見たことなかったので、この機会に行ってみようと思った。ヤスミン・アフマドという女性監督も全然知らなかったけれど、なんとなくピピッとくるものがあった。

 実際に見てみると想像以上に複雑な作品だった。ストーリーは予想通りだったけれど、出てくる登場人物のバックボーンがいろいろで、なるほど、そういう映画だったのか、と度肝を抜かれた。

 まず大前提としてマレーシアは他民族国家なんだとか。

 マレーシア住金物産株式会社社長 鶴田譲治さんの報告によれば、人種構成はマレー系60%、華人系23%、インド系7%、外国人その他10%。海上交通の要衝だった上に、イギリスの植民地支配を経験しているので、公用語はマレー語、英語、中国語、タミル語と多岐に渡っている。そのため、『タレンタイム〜優しい歌』も上映前の注意書きで複数の言語が使用される旨、表示されていた。

 さらに宗教もいろいろ。マレーシア憲法ではイスラムが公式宗教と定められているけれど、個人の信仰の自由も保障されているので、ムスリムが60%、仏教徒が19%、キリスト教徒が9%、ヒンズー教徒が6%、儒教・道教その他が3%。それぞれの祭日があるため、1月1日以外にも複数の正月が存在している。

 大人だったら、それぞれの世界観で生きていけばいいけれど、思春期の子どもたちはそうもいかない。ひとつの学校に様々な背景を持った子どもたちが集められ、仲良くしたり、喧嘩したり、青春を繰り広げていく。

 そうなると宗教や言語だけでなく、経済格差や障害、病気といったパーソナルな悩みも絡んできてしまう。自分より勉強ができる貧乏人を嫌ってしまったり、家族に反対されるような相手に恋をしてしまったり、ヒリヒリとする場面がいくつも出てくる。

 わかり合おうとすればするほど、みんな、本質的にはわかり合えないということがわかってくる。そして、そんなとき、音楽だけは平等に人々の間をつないでくれる。

 音楽でひとつになる。使い古された陳腐な表現ではあるけれど、これが多民族国家マレーシアを舞台に語られるとき、説得力に満ち満ちていた。

 日本ではここまでの経験はなかなかできないけれど、この映画を見ながら、中学3年生のときに開催された出し物大会のことが思い出された。

 それはうちの学校の伝統でもなんでもなくて、理科の先生の思いつきによるものだった。公立高校の受験が終わった2月の半ば。わたしはその先生に呼び出された。

「卒業式前に出し物大会をやるから、司会をよろしくな。あと、出場者も探しておいて」

 もともと勝手な先生ではあったけれど、この問答無用な要求はあまりにも無茶振りが過ぎていた。当然、「イヤですよ」と応じるも、最後の頼みなんだからさぁ、と食い下がられてしまった。そして、先生は言った。

「3年間、一緒の学年だったとはいえ、全員が全員のことを知っているわけじゃないだろ。出し物大会であいつ、あんな特技あったんだって気付かせてやりたいんだよ」

 聞けば、高校に進学するとまわりは似ているもの同士になってしまうんだとか。その後はひたすら学力も経済力も生活環境も近い人たちと生きていきがち。してみれば、公立中学校が有象無象と関わる最後のチャンスになりかもしれない、と。先生曰く、自分とは違うタイプの人間も沢山いるんだと教えたいらしい。

 熱い説明を受けてしまって、気づけば、わたしは司会と出場者探しを引き受けていた。そこから開催日までの二週間ほど、仲のいい友だちと一緒に7クラス約280人の同級生に声をかけまくった。

 結果、先生の狙い通りのイベントになった。わたしも全然知らなかったけれど、ある女の子は新体操でオリンピックを目指していて、リボンを作って派手に演技をしてくれた。ソフトボール部の子たちはヒップホップダンスが好きらしく、大人数で踊ってくれた。野球部のおちゃらけている男子二人は漫才をやっていて、ネタを披露しくれた。不良であまり学校に来ていなかった連中にも、ちょっとだけ参加してほしいとお願いし、ラップをやってもらった。嫌々そうにしていたけれど、感性が上がるとニヤついていたので、たぶん、まんざらでもなかったはずだ。

 他にも自作の詩を朗読したり、ギターと歌を演奏したり、ホワイトボードに即興でイラストを描いたり、みんな、こんなにも芸を隠し持っていたなんてと驚愕しまくった。

 一応、わたしは映像編集をやっていたので、3年間の思い出を振り返るビデオを作り、上映した。卒業アルバムに収録する写真をデータでもらって、スライドショーみたいにした。加えて、他の学校に移った先生たちに電話をかけて、ビデオメッセージを送ってもらい、それらも組み込んだ。けっこう盛り上がった。

 最後、校歌を歌って終わった。普段の朝会では誰も真面目に歌っていないのに、そのときだけは全員ちゃんと歌っていた。すぐに帰ると言っていた不良たちも残って、口を開いていた。それを見て、例の理科の先生が泣きながら、

「いい会になったよー」

 と、言ってきた。喜んでもらえてなによりだった。

 当時、わたしは受け身でやっていたので、この出し物大会がなんなのかよくわかっていなかった。いい機会になったなぁと思いつつ、一般的な催しでもないので、捉えどころのなさにフワフワしていた。

 でも、今回、映画『タレンタイム〜優しい歌』を見て、これだったのかと15年越しに合点がいった。

 奇しくも、それは『タレンタイム〜優しい歌』の最初の公開から15年が経ち、ヤスミン・アフマド監督が51歳の若さで亡くなってから15年が経った今年の出来事だった。




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