【時事考察】「寝落ち電話」で「寝落ち」はついに能動的な意味を持ち始めた! その経緯を調べたところ、コロナ禍に行き当たった
昨日、Xを見ていたら、交際して一ヶ月の彼女との「寝落ち電話」が嫌だと発言し、非難されている男の子の動画がバズっていた。嫌な理由は自分の時間が奪われてしまうからで、リプ欄では賛否両論飛び交っていた。だったら別れてしまえとか、自分の時間は大事だよねとか。
まあ、どちらの言い分もわかるし、人それぞれだと思うので、個人的にはその是非を決めるつもりはさらさらない。ただ、この動画が面白く、つい繰り返し見てしまった。
もちろん、内容に関心があったわけじゃない。だとしたら、なにがそんなにわたしの興味を引いたのか。ひとえに「寝落ち電話」という言葉に猛烈な違和感を覚えてしまったのだ。
それだけ言うと、「寝落ち電話」なんてむかしからあったじゃんと思われるかもしれない。たしかに、わたしたちが学生の頃からカップルが夜に長電話するなんてことはよくあった。たぶん、もっと前から、なんならダイヤル式の黒電話時代から変らない愛のしるしだったはず。「じゃあね」を言うタイミングを失うほど夢中になって、片方が結果的に寝落ちしてしまうのはあるあるだった。
実際、「寝落ち電話」という言葉が意味するところに新しさは存在しない。むしろ、古今東西、好き同士がやることは一緒なのねと微笑ましくなるぐらい。だから、気になったのはそこではなかった。
わたしが注目したのは寝落ちするまで電話することを「寝落ち電話」と呼んでいることだった。具体的には寝落ちが能動的な意味を持ち始めたことに驚いたのである。
従来、寝落ちはそうなることを望んでいない現象だった。例えば、チャットの反応がなくなったときに「あいつ寝落ちしたな」と予想したり、オンラインゲームで友だちと遊んでいるときに眠ってしまって、翌日、「ごめん、寝落ちしちゃった」と謝る形で使っていた。
つまり、基本的に寝落ちは受動的な現象だった。本人が望むわけでなく、そうなってしまったという不可抗力によるものを指していた。
ただ、その性質が徐々に変わりつつあることは認識していた。スマホが普及した頃から、ベッドの中で音楽を聴いたり、動画を見たり、なにかをしながら眠りにつく習慣が若者の間で広がった。要するに、これは寝落ちの期待であり、「寝落ちしたい」という表現もしばしば観測されてきた。
だが、今回、「寝落ち電話」という言葉を知りに及び、いよいよ完全に能動的な意味を持つに至ったんだと衝撃を受けたのである。だって、それは本来の受動的な意味と真逆になってしまうから。
想像するに、カップル同士のやりとりとして、
「いまから寝落ち電話しよう」
と、どちらかが誘うのだろうが、違和感を覚えるのはこの部分。寝落ちする気が満々なのだ。もっと言えば、寝落ちが「〜しちゃった」という話者の想定外を超え、「〜したい」と話者が消極的に望む状況となり、ついに「〜する」と話者の意志を反映し始めている。
一応、これが単なる言い間違いじゃないかを確かめるため、ネットで「寝落ち電話」と検索してみた。どれだけ使用されているかを見れば、ある程度の判断はつくからだ。すると、かなりのページがヒットした。
次に問題となるのはいつ頃から使われているかだ。厳密な調査は難しいが、ダイアモンドオンラインの2018年の記事が「寝落ちもしもし」という言葉に言及していた。
記事の中で「筆者の観測によれば数年前から、若者たちの間でひそやかに流行している言葉である」と書いてあるから、2010年代半ば以降に生まれた言葉と推測される。
そのことに付合するようにYahoo!知恵袋でソート検索をすると、2015年の質問から「寝落ち電話」の文字が登場する。と言っても数年なので、この段階ではその質問者が特殊な言葉遣いをしているだけと見做せるだろう。
なお、目視できる範囲で「寝落ち電話」が普通に使われ始めるのは2017年からだった。因果関係を証明することはできないけれど、2016年に格安SIM市場が成長したことを受け、2017年、大手キャリアが対抗策として電話かけ放題やデータ使い放題のプランを始めたことが影響していると考えるのが自然だろう。
少なくとも、料金を気にせず、「寝落ち電話」を楽しめる人が増えたことは間違いない。
その後、「寝落ち電話」でYahoo!知恵袋のサイト内検索を行い、ヒットした数字を一年ごとにまとめてみた。なお、「寝落ち」「電話」といった単語のヒットも含まれてしまうので数字は正確じゃない。それでも、比較用の目安としては参考になりそうなので羅列していく。
推移を見ていくと、2020年に爆発的に増えていることがわかる。検索結果が正確でないことを加味しても、これは注目に値する。
なぜ2020年に「寝落ち電話」が一気に普及したのか。単純に考えればコロナ禍が影響しているのだろう。
おそらく、活動自粛要請によって、学校や会社に行けないだけでなく、ちょっとした移動すら憚られるようになったことで離れて暮らす恋人たちも、仲のいい友だち同士も、リアルで会うことができなくなってしまった。その寂しさを埋め合わせたいという想いが「寝落ち電話」につながり、本来は受動的だった「寝落ち」という言葉に、能動的な意味が授けられるな至ったのではなかろうか。
だとすると、なんだか、『寝落ち電話』という言葉の普及は素敵なことのように思えてくる。コロナ禍であっても、会いたい人と話したいという欲求は消えたりはしない。いつになったら落ち着くのかわからない不安の中で、制限を守りつつ、それでも君と可能なつながっていたいという気持ちが「寝落ち電話」に結実したのだから。ぐっと胸が熱くなる。
ゆえに、「寝落ち電話」は愛の象徴として認識され、コロナ禍が落ち着きだしてからも使用例は増え続けているのだろう。冒頭で紹介したように動画がバズっているのもそのためで、その是非を巡って人々が盛り上がるのも納得だ。
また、調査の過程でもうひとつ面白い発見があった。それは「寝落ち電話」と同じぐらい「寝落ち通話」という言葉も使われ出していたことである。
これがなにを意味しているのか。電話で会話することがLINE通話などに置き換わり、「通話」という言葉で表現されるようになっているということである。
もともと、電話だって機械を意味する名刺だったのに、電話で会話することが当たり前となり、「電話する」と動詞化してきた経緯がある。その名詞部分が時代の流れで変化し、「通話する」が市民権を得たというのはなかなか凄い。
言葉は変化していくものだけど、こんな風に、リアルタイムで激しく変化する様子を観測できるケースは珍しい。なんとか流星群とか、日蝕や月蝕とか、天体ショーを観測する要領で「寝落ち電話」を眺めてみると、想像以上に感動できた。
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