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【料理エッセイ】元祖ってことになっているカツレツを食べて、『劇映画 孤独のグルメ』に出てくる究極のスープに似てそうなラーメンを食べて大満足

 先々週、映画も本も料理に関するコンテンツをやたらと摂取した。その関係で作品に出てきたものを食べたくなってしまったのである。

 まずは『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』という本で出てきた元祖ってことになっている煉瓦亭のカツレツ。本当は元祖じゃないと言語学的な知見から疑惑を追求されていたのだが、それはそれとして、池波正太郎が幸福を感じた味と知り、普通にぐーっとお腹が鳴った。

 Googleで調べれば、銀座の老舗レストランとして、いまも現役で営業中。東京に住んでいる利点なんて、こういう場所は行こうと思った直後に行けるかと。早速、和光の裏、ガス灯通りに向かってみた。

 すると、あった。あった。屋号の通り、煉瓦の壁が可愛いお店。

 混んでいるかと思ったら、誰も並んでいないじゃないか。ラッキーと喜び勇んでドアの前に立って唖然とした。臨時休業と書いてある。

 嘘でしょ……。

 どうすんのよ。銀座、来ちゃったのに。お昼時、そりゃ他にも飲食店はいくらでもあるけれど、目的がこんなにも明確なときに代わりなんて見つからない。なにせ、わたしはカツレツが食べたい!

 トボトボ。落ち込みながら彷徨っていたとき、ひとつのひらめきが降ってきた。というのも、そんだけの老舗レストランであれば、支店があるんじゃないかと気がついたのだ。

 で、調べてみたら、予想通り支店があった。しかも歩いて行ける距離。

 Googleマップを見ながら移動した。高級感のあふれる街並みから路地をいくつか入っただけで下町エリアが現れたので驚いた。

 橋を渡り、雑居ビルの間を抜けて、近所で働いているらしい人たちが、

「なに食べるー?」

と、盛り上がる声が聞こえてきた。間違いない。これぞ庶民的なレストラン煉瓦亭の姿。

 結果的に本で読んだ内容に近いのはこっちの方なのかもしれない。リーズナブルにボリューミーな定食を素早く提供するという意志にあふれていた。

 なので、回転率も早くって、あっという間に順番が回ってきた。もちろん注文するのは元祖のカツレツ。クリームコロッケもついてくるというからありがたい。

 ちなみに特徴は薄いこと。肉を叩いて叩いて薄くして、ささっと揚げる技法が発明的だったとか。そこに様々なエピソードが加わって、世代がいくつかも重なるうちに盛り盛りになってしまったというのが『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』の推論だった。

 その辺のエピソードも面白いんだけど、なんにせよ、うまいもんはうまい!

 なお、卓上の調味料も重要らしい。これはイギリス中流家庭の習慣で明治時代に入ってきたんだとか。ウスターソースで衣をビシャビシャにして、ご飯をかき込むことが幸せだったんだとか。

 無論、下品な食べ方なので、もともとカツレツは貧乏人の食べ物としてバカにされていたっぽい。それが繰り返されるグルメブームで職人技の世界へと昇華。いま、わたしたちが親しんでいるひらがなの「とんかつ」になっていったという。

 そういう歴史を知った上で、薄いカツレツを食べると文明開花の音がした。

 後日、今度は『劇映画 孤独のグルメ』に出てくる究極のスープに似てそうなラーメンを探すことにした。

 作中、すごく美味しそうだけど、オリジナルのレシピだから食べたくても食べられない料理だったので、劇場を後にしながらモヤモヤしていた。その日は結局、新宿の街をぶらぶらした末、つばめグリルでドイツ料理を堪能したけれど、欲求不満だけは残り続けていた。

 それで、自分なりに近いスープを探すことにした。

 ヒントは魚介ととんこつのWスープ。もともとは郷土料理だったけど、映画の中ではラーメン屋さんが現代風に仕上げていた。

 って考えると、うちから歩いて行ける距離にある中野の名店 中華そば 青葉がそっくりじゃないかと気がついた。

 久々の青葉。完璧だった。

 前から知っている味ではあるけど、なるほど、言われてみれば魚介ととんこつのWスープって旨味が多層に重なり合っている。井之頭五郎の食べていたものと一緒かはわからないけど、限りなく近いんじゃなかろうか。

 あと、改めて食べるとチャーシューがほろほろでヤバかった。箸で持つのもギリギリな柔らかさにしみじみ目を閉じ堪能したくなる。

 料理系のコンテンツのなにがいいって、実際に体験できるところだよね。これがアクション系のものだったら、なかなか簡単には再現できない。ホラー系もリアルに起こったら困ってしまう。

 大学生の頃、メディア論の授業で大食い番組がなぜ受けるのかについて検討したことがある。具体的にはスポーツ観戦の需要のされ方と絡めて、やろうと思えばできることをバーチャルに視聴するとき、人は身体的に興奮を覚えるという仮説から大食いの魅力を分析してみた。

 もちろん、ラーメンを何十杯を食べるなんてことは不可能だ。でも、一杯を食べるニュアンスはみんな知っている。だから、人がすごいスピードで食べていても、自分だったらこんな感じだろうと想像し、追体験する楽しさがある。

 この理屈で考えると本や映画に出てくるお店だったり、料理だったりが食べたくなるのも納得。なんらかのニューロンが刺激され、カッカッと気分が昂ってくる。

 さて、次はなにを食べに行こうかな!




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