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【料理エッセイ】横須賀美術館でエドワード・ゴーリーを巡り、日高シェフのお店で美味しいイタリアンを堪能したのだ!

 いま、横須賀美術館でエドワード・ゴーリー展をやっている。アルファベット順に子どもたちが死んでいくブラックな絵本『ギャシュリークラムのちびっ子たち』が有名で、大人向けとして未だに根強い人気を誇っている。

 ちょうど、友だちが横須賀に引っ越したところなので、会いに行きがてら、絵画を鑑賞するというのも悪くない。で、遊ぼうよ連絡を入れてみれば、けっこう遠いよという話だった。

 調べてみると京急の横須賀中央駅から横須賀美術館駅は歩いて行ける距離にはなくて、バスで30分ほどかかるんだとか。正確には観音崎という出っ張りの先に位置している。

 なので、ついでに寄るというよりはがっつり目指す場所らしく、お昼ご飯もそこで食べる計画を組むことにした。

 ただ、いざ、美術館のホームページに書いてある通り、京急の堀ノ内という駅で降りてみて、大通りのバス停で待ってみたところ、遅れているのか、バスが全然来なくて参ってしまった。日陰と呼べる場所はなく、ギラギラとした日差しにスマホの光量もマックスとなり、熱々になってしまった。

 そのとき、単純な発想で光量を下げたところ、画面がまったく見えなくなって戸惑った。なるほど、そういう仕組みだもんね。いまや時計もつけていないし、誰にも連絡できないし、暇つぶしの当てもないまま、知らない道に立ち尽くした。

 結局、どれだけ遅れたのかわからなかったけれど、溶けてしまいそうになった頃、バスはやってきた。こんなにも車内のクーラーがありがたかったことはない。ひたすら身体を冷やしまくった。

 そこから約20分。曲がりくねった海沿いの道を上り続けて、観音崎までやってきた。看板を見つけて、本当にこんなところでエドワード・ゴーリー展をやっているんだなぁ、と感動した。

 美術館にレストランやカフェが併設していることは多いけれど、ここは一味も二味も違って、なんと日本にアクアパッツァを紹介したことで知られるイタリアンの巨匠・日高良実シェフのお店アクアマーレが入っている。

 以前、元祖イタリアン料理人YouTuber Ropiaさんの動画で見たこともあり、食べてみたいと思っていたから、楽しみだった。

 ただ、驚いたことに満席も満席。離れた場所だから余裕だろうと思っていたが、そんなことはなかった。順番待ちのリストに名前を書くも、なんと2枚目の下の方。ちょっと様子を見た限り、1時間以上はかかりそうだった。

 どうしたものかと迷っていたら、わたしたちより前のお客さんが店員さんに声をかけ、先に美術館を見てきていいか確認していた。どうやら大丈夫らしいので、「じゃあ、こちらも」と便乗し、エドワード・ゴーリー展へ向かうことにした。

 イメージ通り、子どもたちが酷い目に遭う絵本が次から次へと紹介されていた笑

 キャリアの初期から、そういう内容で一貫しているあたり、本物のアーティストって感じがする。ただ、どの作品もわたしは不快な印象はなく、あっさり眺められるので得意な魅力があるんだなぁとつくづく面白かった。

 基本は撮影禁止だけど、一番最初の部屋だけこの角度から撮るのはOKだった。

 わたしはゴーリーを絵本の人だと思っていたけど、アメリカではあるテレビ番組"Mystery!"のオープニングアニメを担当したことで有名らしい。

 解説を読むと日本で言えば『世にも奇妙な物語』みたいなオムニバスドラマらしく、アガサ・クリスティなどを原作にミステリーを多く扱っていたんだとか。

 YouTubeにそのアニメおよび制作の裏側を取材した動画がアップされていた。会場でも見れるけれど、ゴシックな雰囲気がやっぱり堪らない。

 ゴーリーは7歳までにブラム・ストーカーの『ドラキュラ』を読破するなど、こういうゴシック趣味が血肉のようになっているらしい。だから、いまではそのテイストがホラーゲームのデザインなどは引用されているのだろう。

 サイコホラーADV『Neverending Nightmares』はその代表例。これからもフォロワーはどんどん現れてくるはずだ。

 今回、ゴーリーの展示を見て、すでにその作品からしてゲームの画面みたいなことに驚いた。もし、彼がいまの時代に活躍していたら、steamで新作をバンバン発表していたんだろうなぁ、なんてことを思った。

 最後の部屋では晩年の生活が特集されていた。美術を担当した『ドラキュラ』のミュージカルがトニー賞を受賞するなど大成功。大金を稼がことができたので、ケープコッドに終の住処を買ったそうだ。

 60歳を過ぎての移住だったにもかかわらず、すぐ地元の人たちと仲良くなれたというから、信じられないコミュ力の高さ。ゴーリーの絵は一見すると陰鬱なのに、ちゃんとユーモアを込められるのはそういう社交性が関係しているのかも。

 毎日のように近所の食堂で朝ごはんとランチを食べていたとか。そこで出会った仲間たちと「偏屈ジジイ3人組」みたいな写真を撮っていて、素晴らしかった。他にも地元の劇団と一緒に演劇をしたり、週に3日は通う本屋と新作を出版したり、理想の老後を送っていた。こうありたいものである。

 動物が好きだったようで、保護活動に多額の寄付をしていたという。同時に、皮革製品を愛用していて、毛皮のコートをたくさん所有していた。息子さん曰く、最終的にその矛盾を自己弁護できなくなった結果、毛皮のコートを着用するのはやめてしまったらしい。このあたりも人間味があふれている。

 現在、この家はエドワード・ゴーリー記念館となり、多くの観光客が訪れる場所となっている。いつか行ってみないなぁ。

 さて、そんな風に会場を出たところで、レストランの様子が窓越しに見えてきた。これがとても魅力的。いまから、そこで自分が食事をするんだと想像したら、ウキウキ、元気になってきた。

 タイミングはばっちり。名前が呼ばれたばかりだった。準備が完了次第、テーブルに案内してもらった。

 けっこう悩んだけれど、メイン付きのコースを注文。昼からスパークリングワインを飲むことにした。加えて、横須賀で獲れた海ぶどうを使ったカルパッチョを追加した。

 そこからは多幸感の連続である。オーシャンビューを楽しみながら、美味しい食事に舌鼓を打った。

 海ぶどうって、沖縄のものって固定観念があったけれど、横須賀産もプチプチ甘く、最高だった。

 その後、前菜の盛り合わせにもカルパッチョが載っていたので、正直「かぶった!」と思ったけれど、海ぶどうの有無で全然違った。

 海が見えるから、つい、魚に目が奪われてしまうも、実は横須賀あたりは地のものとして野菜も抜群。

 葉ものから根菜に至るまで、瑞々しさと濃厚さが共存していて、一口一口に喜びが満ちていた。

 パスタとピザはどちらにするか難しかった。どちらもいいに決まっているから。今回は赤玉ねぎの魚介ペペロンチーノにした。これまた絶品だった。

 そして、メインディッシュもサワラのソテーと魚で決めてみた。添え物が横須賀のひじきを使ったリゾットで、これまた美味しいのなんの! 脇役まで豪華なハリウッド映画を観ているような感慨に包まれた。

 デザートはおまかせ2種だった。でも、わたしはチョコとナッツがアレルギーでダメなので、そのことを伝えたところ、両方使っていない2種類を出してくれた。

 満腹になり、コーヒーをすすった。ランチタイムも終わりに近づき、お客さんの列もなくなっていた。ここからはカフェタイムなのだろう。

 そのことを確認してから、ギフトショップで購入した図録を開き、ゴーリー展をのんびりと振り返った。結局、ワインを二杯飲んだので、ほどよいくらいに酔っていた。

 ときたま視線を上げると綺麗な景色が広がっていた。贅沢な時間だった。

 そして、思った。

 帰るのめんどくさいなぁ〜

 もうしばらく、現実から逃避をしよう。コーヒーをお代わりした。




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