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【ショートショート】注文の多いアルバイト (2,227文字)

 二人の青年が薄暗いワンルームに寝転んで、こんなことを云いながら、スマホを見ておりました。

「ぜんたい、このサイトは怪しからんね。まともな仕事がひとつもない。なんでもいいから、早くタンタアーンと、稼いで見たいもんだなぁ」

「日給十五万ぐらいもらいたいもんだねぇ」

 コンビニバイトの同僚だった二人は店長のパワハラに耐えかねて、先日、飛んでしまったのです。お互いに貯金はなし。家賃も税金も滞納中。頼れる親族もいないため、こうして集まっては一緒に新しい仕事を探しているのでした。

「ああ困ったなあ、うまいもんが食べたいなあ」

「食べたいもんだなあ」

 空腹をカップラーメンや冷凍うどんで満たしてばかりの日々に疲れ果てていました。

「風呂も入っていないからねえ。スーパー銭湯でひとっ風呂浴びて、ビールを一気に飲み干したいねえ。それから鰻屋に移動して、しっぽりやるのさ」

「俺は天丼食って、ソープに行きたいよ。腹一杯になって、セックスして、なにも気にせず眠りたい」

 いずれにせよ、お金が必要でした。ともにカードローンは限度額いっぱい借りていたし、消費者金融も同様でした。売れそうなものは売り尽くしていたし、もちろん、ギャンブルは挑戦済みで、ことごとく負けまくっていました。いまや、にっちもさっちもいかなくなっていたのです。

 こんなことならコンビニバイトを辞めなければよかった、と二人は少しばかり後悔していました。しかし、店長がクソ野郎だったのは間違いなく、あのまま働き続けていたら心も身体も壊れていたに違いありません。してみれば、こうなる以外に選択肢はなかったわけで、なんとしても新しい仕事を見つけなくては。一層、スマホにのめり込んでいきました。

 やがて、

「見つけた!」

 と、歓声があがりました。

「なにをだい?」

「日給十五万のバイトだよ」

「本当か? どこに載ってた?」

「インスタグラム。支払いは即日で違法ではなく、簡単な仕事らしい。すぐに稼働できる人を求めているらしい。詳しくはDMだって」

「……怪しくないか?」

「うーん。そうかもしれないけど、背に腹は変えられないからなあ。他の仕事は割に合わないものばかりだよ。多少、怪しくてもかまわないよ。とりあえず、DMを送ってみないか? やるやらないは別にして、まずは話を聞くだけなら」

 これには反論のしようがありません。二人ともおかしいとは気がつきつつも、代案を出さないまま、どんな仕事なのか尋ねる形でDMを送っていました。

 返事はすぐにきました。そこにはお問合せありがとうございますとあり、どの仕事もホワイトだけど、高額ゆえに多少はグレーという矛盾した説明が書いてありました。ただし、絶対に捕まることはないので安心してくださいと絵文字付きで気さくに補足もしてありました。

 さすがにまともな仕事でないことはわかっていたので、捕まらないの一言にほっと安心。二人はものは試しと具体的に手続きを進めたいと伝えることにしました。すると、先方は了解しつつ、高額案件につき通常は保証金十万円を事前にお預かりしていると言い出すではありませんか。

 無論、そんな大金、手元にはありません。せっかくのチャンスに盛り上がったのも束の間、辞退せざるを得ませんでした。

 さて、保証金を用意できない旨、丁寧に打ち込んでいたところ、送信前に向こうから追伸がありました。なんと、キャンペーンにつき、いまだけ身分証の写真を送るだけで仕事ができるというのです。

 よかった。二人は慌てて財布から免許証を取り出して、スマホのカメラで撮影。そのまま送信してしまいました。直後、受理されると同時に、審査に必要だからと玄関出たところで自撮りした写真を送ってほしいと頼まれました。

 それから振込先の口座情報とか、実家の住所とか、両親の名前および電話番号とか、直近二ヶ月以内に発行された公共料金か携帯代金の請求書または領収書とか、自宅室内の写真とか、保証金十万円を免除する代わりにいろいろ求められました。

 ずいぶん注文の多いアルバイトだなあ、と不審に思ってはいましたが、すでにけっこうな量を対応していたせいか、こうなったらなにがなんでも日給十五万の仕事をし、元をとらなくてはという思考に二人とも陥っていました。

 もし、これが悪い山猫たちの西洋料理店だったら、専門の猟師が白熊のような犬を二匹つれて、助けにやってきてくれるところですが、人間関係の希薄化が進む現代の日本社会にそんなお節介を焼いてくれる人はおりません。

 二人は注文通りに集合場所へ向かい、同様にして集められた仲間たちとなにがなんだかわからないまま民家を襲い、住人を拷問して暗証番号などを聞き出し、報酬は一円も受け取ることができませんでした。DMで催促したところ、親を殺すと脅され、実家の住所を教えていたせいで歯向かうことができなくなってしまいました。

 やがて、毎日のように強盗を繰り返す中で、顔も名前も知らない仲間が拘束していたお婆さんを蹴り過ぎて、うっかり殺してしまったから、さあ大変。瞬く間に全国指名手配犯となり、懸賞金三百万円に目がくらんだ元バイト先の店長に二人はあっさり売られてしまったのです。

 そして、先ほど、最高裁で二人に死刑が言い渡されました。こんなつもりじゃなかったのにと泣きながら訴えていた二人の顔はまるでくしゃくしゃの紙屑のようになり、床板が抜け、首をくくられてもなお、もとのとおりになおりませんでした。

(了)




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