【ショートショート】◯◯じゃありません (878文字)
「あなたを襲ったのは男性じゃないのですか？」
「いいえ、男性じゃありません」
「では、女性だったんですね？」
「いいえ、女性じゃありません」
「うーん。それはつまり、性別は他人が決めることはできないということですか？」
「いいえ、そういうことじゃありません」
「おかしいじゃありませんか！ 男性でも女性でもないだなんて。まさか、人間じゃないというんじゃないでしょうね！」
「ええ。人間じゃありません」
「人間じゃない？ 刃物で身体中を斬られたっていうのにそんなことがあり得ますか？」
「いいえ、刃物じゃありません」
「まさか！ 服までビリビリになっているんですよ。獣に鋭い爪でやられたって言うんですか？」
「いいえ、獣に鋭い爪でやられたわけじゃありません」
「だったら、あなたはなにに斬られたというんですか？」
「いいえ、わたしは斬られたんじゃありません」
「……からかっているんですか？」
「いいえ、からかっているんじゃありません」
「じゃあ！ どういうことなんですか！ ……いや、すみません。声を荒げてしまって。被害者であるあなたを責めるべきではないですよね。ただ、我々は味方だってことをわかってほしいんです」
「いいえ、あなた方は味方じゃありません」
「……わたしたちの中に犯人があるってことですか？」
「いいえ、あなたたちの中に犯人がいるんじゃありません」
「なるほど。なるほど。あなたはさっきからわたしの言葉を否定しできるだけなんでしょう」
「いいえ、わたしはさっきからあなたの言葉を否定しているだけじゃありません」
「はいはい。そういうことなら、あえて聞いてあげますよ。あなたは傷ついてないですよね？」
「はい。わたしは傷ついていません」
「……え？」
「だから、わたしは傷ついていないのです」
「でも、ボロボロですよね？」
「はい、ボロボロです。でも、いいんです。これでいいんです」
「……犯人を捕まえたくないんですか？」
「いいえ、捕まえたくないわけじゃありません」
「だったら、なぜ」
「捕まえられないんです。アレは絶対に」
「……アレとはなんなのですか？」
そう尋ねると彼女はわたしを指差して笑った。
(了)
マシュマロやっています。
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