【映画感想文】宝塚星組公演『記憶にございません! - トップ・シークレット - 』を観てきたよ! 三谷幸喜監督の映画版との違いが面白かった。『Tiara Azul - Destino - 』は見るエナジードリンクみたいで元気にあふれていた!
宝塚星組公演『記憶にございません! - トップ・シークレット - 』を観てきた。やっぱり宝塚はいい。客席に座ってぽわんとしているだけで、込み上げてくる高揚感が半端ない。
三谷幸喜監督の映画版は公開時に観ているし、今回、宝塚版を鑑賞するにあたって再視聴もした。なので、内容については頭にしっかり入っていた。それでもってどんな風に違いがあるのか、興味津々、劇場に行く日を待ち侘びた。
ストーリーはめちゃくちゃシンプル。ある日、憲政史上最低支持率のダメ総理大臣が石を投げられ、記憶を失ってしまう。そうして心を入れ替えて、裏金をやめ、不倫をやめ、国民の陳情に耳を傾け、家族を大切にし、少しずつだけど人々の信用を取り戻していく。
結論から言うと宝塚版は原作にかなり忠実だった。その上で、ミュージカルになったことで元々のコメディ要素に拍車がかかり、底抜けに明るいエンターテイメントへとアダプテーションされていて、最高に楽しかった。
原作映画は三谷幸喜さんは政治風刺じゃないと言いつつ、公開された2019年の空気感を踏まえれば、モリカケ問題や強行採決、閣議決定など安倍政権をネタにしているのは明らか。迂闊なファーストレディは安倍昭恵さんらしかった。
ただ、単に安倍政権を批判しているわけではなくて、いい部分はいい部分として評価していることが伝わってくる演出も特徴的だった。例えば、記憶を失った後、農家の人が持ってきたさくらんぼを美味しそうに食べたり、奥さんにぞっこんだったり、仲間を大切にしたり。賛否両論あった安倍さんの賛側もしっかりと描いていた。このあたり、同時期に公開されていた藤井道人監督『新聞記者』と対照的だった。
だからなのだろう。安倍さんは映画『記憶にございません!』を観たいと望み、試写会に参加している。そして、「全く別世界だから楽しめた」と笑っていたというから平和だなぁと思ったものだ。
2022年、安倍さんが凶弾に倒れたことを考えると、いまや首相が投石で倒れるという設定は「全く別世界」とも言えなくなってしまった。
果たして、そんな話をこの時代にやっていいのか。制作陣も葛藤したはず。ただ、安倍さん自身が楽しんだストーリーをそれが理由で封印するのは違うような気がする。特に、単なる批判で終わらせることなく、あえて政治を正直に行う可能性を目指した『記憶にございません!』の世界観はいまこそ重要になってきている。
今年は都知事選も自民党総裁選も衆院選も兵庫県知事選も、フィクションみたいにめちゃくちゃだった。なにが本当で、なにが嘘なのか。誰が既得権益で、誰がチャレンジャーなのか。あれは陰謀論だから信じるなという説明が陰謀論めいていたり、パワハラするようなやつはダメだと言いいながら机をバンバン叩いたり、なにがまともなのかさっぱりわからなくなってしまった。ぶっちゃけ、記憶を失った総理大臣という設定が甘く感じられてしまうほど。現実の方がよっぽどぶっ飛んでいる!
歌って踊るぐらいじゃなければ、「全く別世界」にすることはできない。公式プログラムに収録されている三谷幸喜さんのコメントでも言及されているけれど、原作になかった「田原坂46」という選挙アイドルを登場させた点、また、大臣たちの失言を拡充させた点、オープニングをフランス革命みたいに演出した点、とてもよかった。いい具合にカオスとなっていた。
無論、登場人物を増やさなきゃいけないという宝塚特有の事情もあったのだろうけど、そうだとしてもこれらのアレンジは見事にはまっていた。三谷作品が得意とする群像劇の盛り上がりとマッチしていた。
そのあたりの雰囲気はYouTubeで公開されている初日の映像で確認できる。わたしはもう何回も見ちゃっている。
なお、この公演でトップ娘役の舞空瞳さんは卒業ということで、そのことを取り入れた演出もすごくよかった。
トップスターの礼真琴さんか演じる夫の記憶喪失を知ったとき、舞空瞳さん演じる妻が「あなた、あのことも忘れてしまったの?」と思い出を次から次へと尋ねていく。その内容がこれまでの共演作の名シーン。笑いつつもグッとくる。
いやはや幸せな舞台だった。
後半のレビュー『Tiara Azul - Destino - 』もその流れをしっかり引き継ぐハイテンションっぷりがナイスだった。
作・演出の竹田悠一郎さん曰く、ある夜、アルゼンチンのグアレグアイチュのカルバナルの映像を明け方まで見た後、同世代の旅人系YouTuberがアルゼンチン南部のパタゴニア地方の山・フィッツ・ロイを訪れた動画に収録されていた日の出の美しさを思い出し、このショーを作り始めたとか。自分の体験ではなく、YouTubeによる擬似体験でインスピレーションが湧くあたり、新しい時代のクリエイティブっぽい笑
そのためなのか、最初から最後までハイライトが並び続ける豪華! 豪華! 豪華!な仕上がりで、見るエナジードリンクのようなパワーにあふれていた。
ちなみにどんな動画なのだろうと気になって、調べてみたら、こんなのが出てきた。
リアのカーニバルみたいな感じかと思ったら、雰囲気が少し違っていて、スペイン風のしっとりした雰囲気が漂っている。中南米でブラジルだけがポルトガルの植民地だったことが関係しているのかも。衣装はメキシコの死者の日を思わせる怪しさがあり、出し物はエレクトリカルパレード感があり、宝塚で見たやつだ! ってなった笑
フィッツ・ロイについてもYouTuberの名前が書いてなかったので、適当に検索し、出たきたものをいろいろ見てみたのだが、どれもよかった。特にタビオロジの動画は解説がわかりやすく、臨場感たっぷりで気持ちがよかった。
たしかに夜中、こういう動画を見ていたら、頭の中でイメージが暴れ出しちゃうかも。
そして、そういうパワフルさが前半の『記憶にございません!』といい具合に組み合わさって、とても楽しい公演に仕上がっていた。原作にいなかったアルゼンチンの大使が登場したり、原作ではフラメンコだった聡子夫人のダンスがアルゼンチンタンゴになっていたり、粋な橋渡しが行われていた。こういう遊び心も底抜けに明るいコメディだからできることだよね。
また宝塚観に行きたい!
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