【ショートショート】わたしをいじめていた彼女は (853文字)
中二のとき、わたしをいじめていた彼女はこう言った。
「陽子、ごめんね。あのときは本当にひどいことをしてしまった。あの頃、なんであんなことをしてしまったのか、自分でもわからない。でも、いまになって、自分がどれだけ残酷だったか、すごく後悔してる。陽子がどれほどつらかったか、いまはすごく理解できる。あのときの私はただ自分の不安や劣等感を他の人にぶつけていたんだと思う。でも、それがどれだけ間違っていたか、ようやく気づいたの。本当にごめんなさい」
その言葉をわたしはたまたまYouTubeのレコメンドで表示された動画で知った。彼女はインフルエンサーになっていた。毒舌と飾らない性格が売りで、たびたび炎上を繰り返しているけれど、それなりにファンはついているらしい。
調べると先日、彼女からの中学時代の同級生(ということはわたしの同級生でもある)が暴露系YouTuberに、彼女がかつていじめをしていた事実を告発。その情報が公開され、批判が相次いだ際に彼女は前述の謝罪コメントを動画で発表したようなのだ。
コメントは荒れに荒れていた。いまさら謝っても遅いとか、勇気を出して謝れるのは偉いとか、みんな、好き勝手なことを書いていた。そのどれにも彼女はリアクションしてはいなかったけれど、数百万を超える再生数にはきっとご満悦に違いない。
それを見て、わたしはなにを思えばいいのか。
彼女はわたしに謝っているわけではなかった。世間に向けて謝っているだけだった。わたしは彼女にされたことを中二の秋から今日まで一度だって忘れたことはなかった。でも、こんな風に悩み続けるのは馬鹿らしいので、心療内科に通い、彼女を許すための努力をしているところだった。
なのに、彼女はわたしの知らないところで過去の罪を懺悔し、なぜかわたしの知らない世間に怒られたり、許されたりしていた。
だとしたら、いま、わたしが抱えている怒りはなんなのだろう。いったいなにを一生懸命許そうとしているのだろう。
画面の向こうで涙を流す彼女をわたしはじっと見続けた。
(了)
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