一人では完結しない<死にたがりの君に贈る物語>
本作を読み終えた夜に夢をみた。
登場人物である純恋(すみれ)ちゃんが歩道橋の上に立ち、ずっと道路を走っている車を見下ろしている。
「純恋ちゃん。どうしたの、大丈夫?」と声をかけたら、「なんでもない。私は最高に幸せよ」と満面の笑みを浮かべ、手には最新刊本を“Swallowtail Waltz”を大事に抱えていた。
そこではっと目が覚めた。「あぁ、純恋ちゃんは元気に過ごしている!」
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本を読み終えた後に登場人物が夢に現れたのは初めて。それだけ、潜在意識に残っていたのだろうか。
本作のあらすじを少し紹介すると、大人気小説“Swallowtail Waltz”の著者であるミマサカリオリが亡くなったというSNSの書き込みから始まって、ファンである7人が小説のように模倣した共同生活を過ごすことになる。
主人公は前述した純恋ちゃんではなく、大学生の広瀬くん。彼を通して6人の人物像がみえてくるが、ある事件が起こって広瀬くんはミマサカリオリではないかと疑われることに…。
展開がとても早いことに戸惑いながらも、サバイバル生活での人間模様、SNSによる恐怖感を知ることで「小説とは誰のもの?」「物語に対する愛するって何?」と考えさせられる。
その問いを逡巡しているうちに、編集者の物語への切なる願いがわかり、物語を深く愛した純恋ちゃんによってつながれていくことになる。ここで素晴らしいのは、純恋ちゃんが抱いている物語への愛は誰にも敵わない、世界を変えていく愛があることが、目が釘付けになるくらいに、はじけるように書かれていること。怒涛のような言葉も打ち消すように、大好きで、愛している気持ちがものすごいスピードで伝わってくる。
あらすじを少しだけではもどかしい。いっそ、すべてを書きたい気持ちにかられるが、純恋ちゃんの全身全霊の愛をもっとたくさんの人に読んで欲しいのでぐっとこらえ、読書感想文の最後として、「パールズを超えて」の言葉を紹介したい。
これは、ドイツの精神医学者パールズの弟子であったタブスが書いた言葉で、ミマサカリオリが純恋ちゃんに伝えたい想いがこの言葉に深く重なっていると思う。
改めて、言葉を噛みしめながら。
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<パールズを超えて>
「私は私の人生を生き、あなたはあなたの人生を生きる。
もしそれだけならば、
お互いの絆も私たち自身も失うことになる。
私がこの世に存在するのは、
あなたの期待に応えるためではない。
しかし、私がこの世に存在するのは、
あなたがかけがえのない存在であることを認めるためであり、
そして私もあなたからかけがえのない存在として認めてもらうためである。
お互いの心がふれあった時にはじめて、
私たちは本当の自分になれる。
私たちの心のふれあいが失われてしまえば、
私たちは自分を完全に見失ってしまう。
私とあなたの出会いは偶然ではない。
積極的に求めるから、あなたと出会い心がふれあう。
心のふれあいは、
成り行きまかせではない自分から求めていったところにある。
全ての始まりは私に委ねられていて、
そして一人では完結しない。
本当のことは全て、
私とあなたとのふれあいの中にあるものだから」