心情の変化と時の移ろい<氷柱の声>
かしこまるようですが、大震災で経験したことを伝えるというのは「伝えたい」「伝えなくては」という強い意思がある時と、「伝えようか」「伝えるべきか」と迷いながら結論が出るまではできない時があるのでしょう。その心情の変化を時の移ろいを細やかなエピソードで描き出しています。
物語は2011年3月、盛岡の自宅で大震災に遭った高校2年の伊智花が美術部で絵を描く場面から始まります。
伊智花が当時に描いたニセアカシアの白い花が降る絵と、10年後に描いた大きな桜の木はどちらも見上げるような構図で木のてっぺんから地面まで花が降っているようで迫力があります。
絵は同じようですが、伊智花の気持ちが変わりました。
伊智花の家はライフラインが止まりましたが、まわりに比べて被害がなかったことに周囲に申し訳ない気持ちがあり、絵にも表れていました。しかし、今は違います。
それは、絵を描くことで不思議な心地よさがあり、同僚のセリカさんが伊智花の心の中を素直に感じ取ってくれたから。
著者のくどうさんはあとがきにこのように記しています。
わたしたちは何を語ろうとしても「震災のあった人生」以外を選ぶことはできないこと。
どこに暮らしていたとしても、何も失わなかったとしても。
主人公の伊智花だけでなく、誰にでもなにかしらの変化があったことを思い起こす1冊になるのではと思います。
書き続ける楽しみを感じています、その想いが伝われば嬉しいです~