#13 心理学の名著30
サトウ タツヤ(2015).心理学の名著30 ちくま新書
本書概要 from 筑摩書房
人間の心への興味はつきることはない。それらに答える心理学はジャンルも多岐にわたるため、何を読んで学べばよいか、迷う人も多い。そこで本書では、「生物としてのヒト」「個人的な人生を展望する存在としてのひと」「社会的な存在としての人」という三つの側面に着目して、それぞれの名著を一気に紹介する。加えて、それぞれの研究者の関わりが描かれているため、心理学の展開も理解できる。古典から最新の理論までを網羅する入門書。
本書感想
心理学には名著が少ない(p.282)。そのなかでの30冊は以下の観点で選ばれている。
・本当の名著
・講演録や論文集
・心理学の学説史上,重要な論点を提出した心理学者の著書
この基準を用いると100冊弱は紹介することになってしまうらしいので,「ヒト」「ひと」「人」という3側面の心理についてそれぞれ10冊ずつ選定されている。
ヒトの心理とは動物界の一員としてのヒトの心理,ひとの心理とは発達・成長する存在としてのひとの心理,人の心理とは社会を作り,社会で生きていく人の心理である。
以上の方針に基づき30冊が選ばれた。ただし,本書は著書そのものを紹介するというよりも,著書(あるいは著者)にまつわる心理学の観点からみた歴史を紹介している。そのため,心理学についてある程度知識がないと楽しく読めないであろうと思われる。心理学についてある程度知っている人(大学生で言えば3年生〜4年生くらい)向けの本であろう。
ただ,まえがきで記される心理学の分類については初学者でも参考になる。その分類とは簡単に言えば,上記の3側面(「ヒト」「ひと」「人」)に,心理学の3つの志向性を掛け合わせた9分類で心理学を捉えようとするものである。詳細は本書にて確認してほしい。
(以上はInstagramの再掲)
ページ数から見る著者の力点
本書は4章から構成されていました。各章のページ数は以下の通りです。
第四章は紹介されている名著自体が他の章と比べて少ないのでページ数が少なくなっています。
第二章のページ数がそれ以外の章に比べて若干ページ数が多く87pでした。おそらく第二章にビネ・シモンの知能(IQ)が含まれること,ブルーナーの『意味の復権』もこの章に含まれることから,第二章のページ数が多くなったのかと思います。
と言いますのも,サトウタツヤ先生は,IQ批判論者(ビネ・シモンと関連)でもありますし,質的心理学(人間における意味を捉えるための方法論,ブルーナーと関連)の先導者でもあるので,その点に対して少し気持ちがのっているのかなと感じたためです。
*目次*
─ はじめに
第一章 認知・行動領域──「ヒト」としての心理学
── 1 ジェームズ『心理学について』──近代心理学の土台となる思想
── 2 ルリヤ『偉大な記憶力の物語』──記憶力が良ければ幸せか
── 3 スキナー『自由と尊厳を超えて』──新たな行動主義
── 4 ノーマン『誰のためのデザイン?』──アフォーダンスの応用
── 5 セリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』──無力感の研究から始まる楽観主義
── 6 カバットジン『マインドフルネスを始めたいあなたへ』──自分らしく生きるための思考
── 7 ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊,ふたたび』──脳のなかの意識ではないもの
── 8 ダマシオ『デカルトの誤り』──身体と精神は別ではない
── 9 トマセロ『コミュニケーションの起源を探る』──人は協力するために他人を理解する
第二章 発達領域──「ひと」としての心理学
── 10 ビネ,シモン『知能の発達と評価』──教育のための適切な検査
── 11 フロイト『精神分析入門』──心理学と精神分析のつながり
── 12 ユング『心理学的類型』──対立を乗り越えて
── 13 ヴィゴーツキー『教育心理学講義』──心理学が教育にできること
── 14 ロジャーズ『カウンセリングと心理療法』──カウンセリングの可能性を開く
── 15 エリクソン『アイデンティティとライフサイクル』──人間の発達の可能性
── 16 ギリガン『もうひとつの声』──他者への配慮の倫理
── 17 ブルーナー『意味の復権』──意味から物語へ
── 18 ハーマンス,ケンベン『対話的自己』──自己はたった一つではない
第三章 社会領域──「人」としての心理学
── 19 フロム『自由からの逃走』──人間の本質とは何か
── 20 フランクル『夜と霧』──人生の意味を問いなおす
── 21 レヴィン『社会科学における場の理論』──ゲシタルト心理学の流れ
── 22 マズロー『人間性の心理学』──動機づけを与えるために
── 23 フェスティンガー,リーケン,シャクター『予言がはずれるとき』──人は都合よく出来事を解釈する
── 24 ミルグラム『服従の心理』──誰もが悪になりうる
── 25 チャルディーニ『影響力の武器』──ダマされやすい心理学者による提案
── 26 ラザルス『ストレスと情動の心理学』──単純な因果関係を乗り越える
── 27 ミシェル『マシュマロ・テスト』──性格は個人の中にはない
第四章 心理学の展開
── 28 ロフタス 『目撃者の証言』──記憶はどこまで信用できるか
── 29 ヴァルシナー『新しい文化心理学の構築』──普遍と個別を架橋する概念としての文化
── 30 カーネマン『ファスト&スロー』──行動経済学の基本にある心理学的考え
─ あとがき