#08 ニューロダイバーシティと発達障害
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前回はこちら。
正高信男(2019). ニューロダイバーシティと発達障害──『天才はなぜ生まれるか』再考── 北大路書房
本書紹介 from 北大路書房
発達障害は人類本来のヴァリエーションである。歴史に大きな業績を残した偉人のエピソードをもとに,進化心理学・神経科学の知見をふまえ,様々な障害が強みに働いた過程を考察。障害のもつ特色を見出し均質化した現代人の生のあり方に「ふくらみ」を取り戻すことを試みる。好評書を全体的に見直し新たに三章分を加筆した。
本書概要
本書は著者が2003年に刊行した著書『天才はなぜ生まれるか』に加筆・修正したものである。だから副題で「再考」となっているわけだが,この経緯を知らないとどのあたりが再考なのか正直よくわからないであろう(その意味で,この経緯はあとがきではなくまえがきで述べた方が良かったと思われる)。
というのも,著者の主張「発達障害ないし学習障害に由来する特徴こそが天才を生んだ」は,昨今においてはある程度広まっていると思われるためである。『天才はなぜ生まれるのか』が刊行された2000年頃の様子はわからないけれど,それから約20年経た今では,「障害」は「個性」(これについて賛否両論ある)と言われるほど,「障害」についての認識は広がり,研究内容も多様化していると考えられるからである。なので,単純に新しい本として本書を読んでしまうと,現状(2020年現在)に対する著者の認識がずれているような違和感を抱いてしまう。
それ以外にも色々書きましたが、書きすぎて文字数オーバーしてしまいました(笑)
公開できなかった分はnoteで公開します。
(以上はInstagramの再掲)
インスタで掲載できなかったこと
というわけで,Instaで掲載できなかったことを以下に記載いたします。
(ブクログや本が好きで公開されている内容に少し加筆しました)
本書タイトルでは「発達障害」と銘打っているのに対し,まえがきの冒頭で,「この本は,広義の意味での学習障害を持って生きた人々の物語である。」(p.ⅰ)と記される。あれ?発達障害の話ではないのか,まあ,でも,広義の学習障害に発達障害を含めるのかな,と思って読み進めると,次のページ(p.ⅱ)で,「学習障害の範疇からは少し逸脱するが,例えば自閉症が良い例である。」と記される。え?自閉症って発達障害ではないの?それが学習障害の範疇から逸脱とするのであれば,タイトルには発達障害よりも学習障害の方が適しているのでは?と思わされる。ただ,本書の中では発達障害(自閉症)として紹介される事例も出てくるのだが。。。学習障害への本質的な対策を考えるにあたり,まず障害を細かに診断することが,絶対必要条件(p.267-268)と記している著者だからこそ,発達障害と学習障害との関係性(両者の位置づけ)を曖昧にせず,それらの関係性について簡単にでも良いので触れた方が良かったのではないかと思われる。
タイトルに関しては,ニューロダイバーシティも少しミスリーディングであるように思う。ニューロダイバーシティとは脳神経系の多様性であり,この観点から発達障害/学習障害を紹介する本を寡聞にして知らなかったので大変興味を持った。しかし,脳神経系の話は散りばめられているものの多くはなく,認知心理学的な観点からの紹介といっても問題はなかったように思われる。特にモーツァルトはニューロダイバーシティの観点からみてどのあたりに「障害」を見いだせるのか,そもそも「障害」を持っていた人物として描いていいのか本書を読んだだけでは疑問を持った。 発達障害/学習障害というには根拠が薄く,発達障害/学習障害という先入観で見るからそのように感じるだけではないかと思った(さらに言えば,モーツァルトの章は半分くらいは関係のない前置き的な話)。
また,「学習障害を持ったがために真にユニークな存在に障害者をするための支援というものを,私たちは考えなくてはならないのだ。」(p.272)と記される。この主張には賛同し,「障害」を持つ人を「できない」存在としてみるのではなく,「できる」存在として捉え,どのように発達していくかの環境を創造することが重要だと私も思う。しかし,著者の想定する支援には,発達環境の創造というよりも,「できない」点の補償が前提とされているように思う。おそらく発達環境の創造が難しいためにそうなってしまうのではないか。補償ではなく,「障害」を持つ人がどのように発達できるのかということを考えなければならないと思う。
また,動物行動の研究をしているからだとは思うが,関係のないところで「遺伝」の話を出すのも少し気になった。たとえば,「モーツァルト一家が家族を犠牲にしてまで旅を続けたことはシュピルーマンの血を抜きに解釈できない」という話は遺伝(血)のことを持ち出さなくても十分に説明できるだろう。
本書内容ではなく,出版社の意図についての疑問もあった。あとがきによると,自閉症児は黄色を嫌う(p.276)とされている。研究結果の図も掲載されており(図a),その図に従えば,ピンクも好まれないことが読み取れる。しかし,本書のカバーは黄色とピンクが目立ち,カバーを外すと全面黄色である。発達障害/学習障害について記した本,それもダイバーシティ(多様性)について記した本が,発達障害に非フレンドリーな色遣いをしているのはなぜなのだろうか。少し悲しい気持ちになった。
辛口のコメントになってしまいましたが,一応断っておくと,ある人の人生を読み解きながら,認知心理学,神経心理学への興味を喚起するという一般的専門書(専門書と一般書の中間くらいの内容)として本書はとても面白いです。小難しくなく,しかし,優しすぎず,ちょうど良い塩梅で読める心理入門書かなと思います。また,アウトプットではなくメカニズムを探ろうという提案(p.270)には納得であり,著者本人の専門分野の箇所については理解できることもあります。以上のような本書を上記のような辛口の視点で見てしまうのは正直心痛いですが,一応心理学の専門家として書いておいた方が良いかなと判断しコメントしました。
最後に,気づいた限りでの誤植と思しきものを以下に列挙します(p.○ーL☆,○頁☆行目という意味)。
p.12-L6,L7:NT→ND(非定型)
p.13-L14:1000→10000
p.14-L10:1000→10000
p.31-L3:視覚的→知的
p.31-L6:知的→視覚的
p.102,図4-1:↓の位置
p.119-L8:ルーフ→ループ
p.213-L6:ぃ→い
p.227-L2:陣→人
p.235の最後の段落:双方や後者とあるが,どこを指しているのか分からない
ページ数からみた著者の力点
本書は10章から構成されています。各章のページ数は以下のグラフの通りです。
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