#09 体験と経験のフィールドワーク
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宮内 洋 (2005). 体験と経験のフィールドワーク 北大路書房
本書紹介 from 版元ドットコム
フィールドでの人間関係や調査者としての苦悩,フィールドワーク上のトラブルといった従来語られなかったセンシティブな問題を抽出し,真正面から向き合った待望の入門書。心理学,社会学,教育学,民俗学,社会福祉など,質的研究,フィールドワークに向かう人,必読!
本書概要
打越正行による記事「「先生かどうかわからない人」が教えてくれた他者への想像力の磨き方」を読んで本書の存在を知りました。
面白い講義の実例が本書に載っているのか!と思ったと当時に,当時考えていた「心理調査は果たして本当に人間心理を捉えられるのであろうか?」という疑問へのヒントももらえるかもと思い即座に購入しました。
本書は著者の「社会調査」経験を踏まえて感じた違和感を基にした論考です。端的に,かつ,大雑把に括るのであれば,調査実施に伴う調査者側の変化ないしは発達をどのように考慮に入れながら調査を実施し,また,現象を捉えられるのか,ということを主題にしているのかなと思います。
Web調査を含む集団式の質問紙調査などではこの問題を巧妙に避けている(と見せかけている)わけですが,果たしてそれで本当に人間心理を捉えられているのでしょうか。人間心理を捉える上では対象者との関わりは必要であり,またその関わりにおいては研究者も固定した(変化しない)存在ではいられないため,それらを踏まえて人間心理を考えていく必要があるのではないでしょうか。(もちろん,対象者と関わらずに人間心理を捉えられる部分もあるかもしれませんが,そのためには周到な調査計画が必要だと感じます。)
本書はわかりやすく明確に答えが記されているわけではありません。むしろ,泥くさく,かつ,ごちゃごちゃと書かれており,答えも記されていません。それでも心理学において本書のような調査方法論はほとんど存在しないという点で,本書は心理学の調査方法について悩む人の参考になる書籍かと思います。
また,本書で提示される問題群は何を今更?と思う部分もありましたが,逆に言えば,現在も解決されることなくタイムリーに残っているような問題群でもあり,本書が15年前に書かれたことを考えると,本書の先進性が際立っているのかもしれません。あるいは,調査方法論においては解決しがたい問題群として繰り返し考え続けられていく問題群を本書は明確にしてくれたとも言えるのかもしれません。
一応付言しておきますと,本書の紹介で「入門書」とありますが,当該学問の学び始めという意味での入門書としては少しハードルが高いように思います。心理学,社会学,教育学などをオーソドックスに一旦学び,その上で「それらの学問で学んだ方法で本当に対象(心や社会や教育)を捉えられているのか?」と疑問を持った人にとっての「入門書」になると思います。
(以上はInstagramの再掲)
ページ数から見る著者の力点
本書は5章ありました。各章のページ数は以下の通りです。
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