#14 つながりの作法
綾屋 紗月・熊谷 晋一郎(2010).つながりの作法──同じでもなく違うでもなく── NHK出版
本書概要 from NHK出版
ふたりのマイノリティが探り出した、他者や世界とつながるための条件とは?
“つながらないさみしさ”“つながりすぎる苦しみ”
――自閉症と脳性マヒというそれぞれの障害によって外界との「つながり」に困難を抱えて生きてきた二人の障害当事者が、人と人とが「互いの違いを認めた上でなお、つながりうるか」という、現代社会の最も根源的課題に挑む画期的な書。
本書感想
過剰につながれない綾屋と,過剰につながりすぎる熊谷の両氏が,それぞれの立場から,多様な他者を他者として認めた上でどのようにつながれるのかを考察した一冊。
どのようにしたらつながることができるのか(つながりの作法)についての著者らの考えは大きく4つにまとめられる。
1. 世界や自己のイメージを共有すること
2. 実験的日常を共有すること
3. 暫定的な「等身大の自分」を共有すること
4. 「二重性と偶然性」で共感すること
これらのポイントはなかなか実践するには困難があるものの,ポイント自体は納得できるものであるので,興味のある人は本書で確認してみてほしい。
個人的にはつながりの作法よりも当事者研究の成果としての本書に感銘を受けた。
・自分の経験を経験として終わらせず,体系化した「知識」にまで昇華し,他者と共有できる形にしたこと
・その「知識」を得るために,自身の経験をどのように捉えたら良いのかについての視点
・両極の経験から同じ現象を考える方法
など,自分の悩みをモヤモヤした曖昧なものに終わらせず,悩みを解消し,あわよくば他者の悩みを解消するきっかけになるものへと発展させている。本書で最も魅力的に感じたのはその点である。
読めば読むほど,つながるのが簡単ではないと感じるかもしれないが,味の出る一冊であるように思う。
(以上はInstagramの再掲)
ページ数から見る著者の力点
本書は6章から構成されていました。各章のページ数は以下の通りでした。
最もページ数の多い第五章は本書のタイトルを冠した章でした。これまでの章で記述されたことを前提として,他者とつながる具体的な方法を,「べてるの家」や「ダルク女性ハウス」の実践をもとに考えていく章でした。実践の具体例があること,それをもとに「つながりの作法」を提案していくこと(これが本書のメインテーマであろう)から,第五章のページ数が他の章に比べて多かったのだと思われます。
*目的*
─ はじめに
第一章 つながらない身体のさみしさ 綾屋紗月
── あふれる刺激
── ほどける私
── 感覚飽和
── 情報の全体像を見失う
── 教室は言葉の無法地帯
── 運動におけるつながらなさ
── ドリブル運動で時間と空間が消える?!
── 発声運動の困難
── バラバラで過剰なフィードバック
── パソコンで「わたし」が起動する
── 世界の崩壊
第二章 つながりすぎる身体の苦しみ 熊谷晋一郎
── こわばりやすい身体
── 周囲とつながるための適度な「つながらなさ」
── つながりすぎる人間関係──密室の親子
── 二つの幻想が支配する密室
── 密室のぐるぐる──自己監視の悪循環
── 爆発する過食嘔吐
── 先行するイメージの加害性
── 「隙間」に生まれる欲求で動き出す
── 《知覚・運動ループ》で世界と身体を更新する
── 「開かれた介助」で健常イメージを取り込む
── つながり感を得る条件──「差異」と「全体」の検出
── 密室をほどいて結び直す──睡眠・覚醒サイクル
第三章 仲間とのつながりとしがらみ 綾屋紗月
── 共有されなければ意味は生まれない
── 「わたし」を押し殺す
── 第一世代──過剰適応する時期
── 名づけを求めて
── 仲間と出会って救われる
── 第二世代──仲間と出会い連帯する時期
── 仲間のしがらみ
── 第三世代──多様性を認めながら連帯する時期
第四章 当事者研究の可能性 綾屋紗月・熊谷晋一郎
── 硬直したカテゴリー思考
── 当事者研究とは
── 私たちの当事者研究の始まり──仲間と共に自分を生み出す
── 『べてるの家の「当事者研究」との出会い』
── 自分の成り立ち①──「構成的体制」と「個人の日常実践」の相互循環
── 自分の成り立ち②──「わたし」と「私」を立ちあげる
── 「私」が立ちあがる条件
── 「わたし」が立ちあがる条件──あたふたモード・すいすいモード
── 「わたし/私」を立ちあげられない人たち
── 「研究の論理」の導入
── 一次データの収集
── 「構成的体制」の立ちあげと共有
第五章 つながりの作法 綾屋紗月・熊谷晋一郎
── 抑圧されずに一次データを語れる場の確保──「言いっぱなし聞きっぱなし」
── 聞きっぱなし──他者の語りが自分のことのように
── 言いっぱなし──わたしが話すのを聞く
── 空気を読み合う空間
── 空気を読まない工夫──自分の語りに集中する
── 一次データがいちばん偉い
── 個を超えた構成的体制の位置づけ
── 「部分引用」と「データベース」を介したゆるいつながり
── 12の伝統──支配が起きないために
── 「体制への信仰」と「体制への更新」
── 当事者研究からつながりへ
── つながりの作法①──世界や自己のイメージを共有すること
── つながりの作法②──実験的日常を共有すること
── 回復とは更新し続けること
── つながりの作法③──暫定的な「等身大の自分」を共有すること
── 変えられる部分を過大評価するリハビリ
── キャラ立ちによる連帯
── つながり作法④──「二重性と偶然性」で共感すること
── べてるの家の「笑い」
── 「没入と俯瞰」の二重性
── 「固有名と匿名」の二重性
── 「規範と逸脱」の二重性
── おいてけぼりをやわらかく包みこむ
第六章 弱さは終わらない 綾屋紗月
── 止められない「過去へのタイムスリップ」
── ささいな感情の抑圧
── 「本当の実力」幻想も悪循環のひとつ
── コミュニティの中に安全な聞き手がいない
── 規範の相対化が幻聴を生む
── たわいのないことだからこそ話せない
── 仲間への「説明責任」という発想
── 思い切って打ち明ける
── いろんな場所で何度でも
─ あとがきにかえて 熊谷晋一郎
─ 参考文献