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フィンランド旅行記録No.2

降り立った見知らぬ街に弾む胸

車内のアナウンスはもちろんフィンランド語(suomi)なので、無意識に耳から滑り落ちてしまう。 知らない言葉に全ての興味を集中させることはできないのか、脳が遮断しているのか。車内が静かすぎるからか、より一層大きくアナウンスが響くような気がした。

見知らぬ街に見知らぬ人たち。停車のたびに変わる風景をただぼーっと眺めているだけで、何かを考えているようで何も考えていない時間を過ごしているうちにヘルシンキ中央駅に到着。

人並みに合わせて下車すると、これまたホームが美しくて息を呑んだ。天井のトラスから差し込む朝のやわらかな光と空の色が、乗り降りする人の群れと交差して、きらきらと輝いて見えた。7時前の駅構内は、平日なのもあってか人は多かったが、日本の通勤ラッシュとは異なる落ち着きが満たしている。

ただ駅のホームいるだけなのにもう既に楽しくなって、ところ構わず写真を取りまわるTHE観光客ムーブをかます。いい歳こいてはしゃいでばかり…妻に見られたらなんと言われるのかとふとよぎって冷静になることができた。

薄い空の色とすこしざわついたホーム。写真を撮り回しているのは勿論私だけ

コーヒーとともに染み入る浅ましさ

ホーム出口に佇むのは緑色の看板のフィンランド名物、ロバーツコーヒー!これはフィンランド初の飲食物はコーヒーに決まりということで、店員さんに拙い英語で話しかける。店頭に掲げられた黒板にはカフェラテやらエスプレッソやら書かれていたものの、まずはブラックが飲みたい。尋ねると、ブラックはウォータージャグに入っていてセルフで好きな量を注げるようだ。

手渡された紙カップはスタバでいうところのVentiサイズくらい。好きな量いけるなら、と無意識に並々に注いでしまうのが恥ずかしい。 そして熱々になった紙カップを持つのに一苦労しているのもまた恥ずかしい限り。人間とはかくも浅ましさと卑しさを抱えて生きるしかないものなのだろうか。(コーヒーの味は浅めで、熱さも相まってシャキッとした)

なるべく熱くならないように最大限努力した情けない持ち方

そんなことを考えながら円形の天井から入る朝の光に目を細める。薄黄色に彩られた壁からはどことなく長い年月が感じられた。
明らかに建物自体は新しくないのに、床や壁や柱のどれもが、昔からずっとここにあったような顔をして佇む空間は、体感したことのない落ち着いた雰囲気が満たしていた。

行き交う人を受け入れる優しい色味の駅構内
天井の形状と窓から差し込む光が美しすぎる
ぜんぶがカッコいい東側の出口。木製の扉は軽やかな印象

重たいキャリーバッグを引きずりながら、右も左も分からずとりあえず東側の出口を出てみると、そこに広がる風景に開いた口が塞がらない。

左手にはNational Theatre、右手にはArt Museum Ateneum(後に調べて分かった)、中央にはこれから出発するであろうバスやタクシーの群れ。
何より最大の衝撃は、フィンランドで一番の都市であるにも関わらず、駅を出たときに建物の身長が低く空が広く見えたこと。根拠はないが、空が多く見える方がなんとなく心が落ち着く気がして、不思議と懐かしさを感じていた。故郷の景色とは違うのに、ゆるりとした空気感が体の力を抜いてくれるような、そんな感覚。
自然からなる明るさを大切にして、街全体が誰にとっても居心地の良い場所であろうとしているのだと思う。

逆光でも綺麗な街並み

異国感に包まれながら、気がつけばVentiサイズのコーヒーが無くなるくらいの時間、駅周辺にキャリーケースを転がしていたのだが、 どれだけ歩いても飽きることはなさそうな独特の街並みに感動を覚えた。

駅の正面。青銅の味わいと円形の窓、そしてグリッド状の窓枠。たまらんです

とろとろと彷徨う眼と止まる足

街中で見かける建物の多くに目を奪われながら写真を撮っていると、お腹が空いていることに気がつく。ふと目に入ったカフェにて朝食を軽めにとることに。ついでにiPhoneも充電させてもらおうという魂胆。

カーペットが敷かれた古い石階段を上った先に鼻を突いたのは甘いバターの香り。メニューの前にクロワッサンと目が合う。 一緒にコーヒーも、と覗いたメニューにはまたしてもラテやエスプレッソばかり。 ここの人たちはブラックは飲まないのか。それともブラックはメニューに書くまでもないのか。

わからないがクロワッサンとブラックコーヒーを鼻息荒く注文し、無事充電もさせてもらえることに。 テーブルに置かれた現地の新聞(もちろん全suomiで読めるわけもないが雰囲気を味わうには十分)を眺めながら朝食を楽しんだ。
コーヒーは結構ビターな感じというか、甘いクロワッサンと相性バツグンでとても美味しかった。

コーヒーを片手に分かったような顔をして新聞を見つめる
店員さんには一体どのように見えていたのだろうか


カフェの階段でこんな感じでちょっとしんどかった

空の色彩もどうしてかな?
初めてなのに 懐かしいの

『Your Heaven』YUI

大人になってからこんなにも色濃く記憶に残っていることもそう多くない人生だったが、1ヶ月経ったいまでも昨日の事のように思い浮かべられるほど大きな衝撃が、到着後数時間に凝縮されていたのだと思う。
目に映る全てが新鮮で、心は動きつづけているのにどことなく懐かしくて、優しい気持ちになれたことが嬉しかった。

ただただ建築物が綺麗なのではなく、そこで暮らす人々にとって過ごしやすいように、ずっと考え続けてきたから、長い年月が経っても味わい深くなっていくのだろう。
街の優しさに触れてポジティブな感情を保ったまま、次回は旅中に幾度と足を運ぶことになったヘルシンキ大聖堂の話に行けばいいなと思います。

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