2020年 北海道大学 二次試験 日本史
というわけで、大学入試問題に挑戦、一発目は2020年度の北海道大学の日本史に挑戦です。北大の問題、今回初めて解いてみました。形式としては用語記述+論述ということで、記述問題は標準的、論述問題は思考力を問うような問題も見受けられ、なるほどなー、といった感じです。では、以下私なりの解答と解説。
第1問 A 古代の市 #奈良時代 #平安時代 #政治史 #社会史
問1.解答 (1)橘諸兄 (2)ア:吉備真備 イ:玄昉 ウ:藤原広嗣
解説 奈良時代の政治史の基本問題。「4子の死去後に政権」「唐に長く滞在した経験」「僧」「九州で起こした反乱」あたりがキーワード。
問2.解答 全国から納入された調・庸を、役所に必要な物品と交換するために設置され、国家財政にとって重要な位置づけにあったため、国家によって管理された。(69字)
解説 設問の要求は「京内に官営の市が置かれたのはなぜか」「国家が監督したのはなぜだと考えられるか」、条件は「文章Aの内容を踏まえ」て70字以内で説明すること。要求だけを見ると、教科書ではなかなか記されていない内容であるが、条件の「文章Aの内容を踏まえ」ると、なるほどなぁと気づく問題。リード文もきちんと読ませるのは最近の入試のトレンド。文章Aの最後5行あたりが参考になる。「役所から糸を運び出し」「紙や墨、米など役所が必要とした物品に交換されたと考えられ」「市をはじめとする商品流通の場が」「国家財政にとって重要な位置づけにあった」と書かれているので、役所の糸というのから調・庸のことを想起して解答をまとめたい。
問3.解答 「従八位上」とあり、大宝律令制下の位階が記載されているため。
解説 木簡が大宝律令の施行後に書かれたものであると判断できる理由を問うた問題。冠位制の変遷は教科書ではなかなか記載はないが、推古朝の冠位十二階→孝徳朝の647年の13階→649年の19階→天智朝の664年の26階→天武朝の685年の48階→大宝律令の30階と変遷していく。だいぶ細かい知識であるが、こんな知識無くとも、木簡の内容のうち飛鳥浄御原令から大宝令で変化しうる要素を考えると良い。歴史的思考力を問う問題。
問4.解答 嵯峨天皇
解説 「唐風の文化・儀礼を重んじ、宮廷の儀式の整備に努めた天皇」とあるが、何より「弘仁」という年号と結び付けて想起したい。
問5.解答 エ:法成 ウ:定朝
解説 国風文化の基本問題。「道長の建立」「平等院鳳凰堂」「阿弥陀如来像」あたりがキーワード
問6.解答 (1)往生要集 (2)群盗や武士による騒乱が起こり、疫病や災害が頻発し、来世で救われたいという願望が高まっていたため。(48字)
解説 (1)は「源信(恵心僧都)が著した仏教書」という基本問題。(2)は設問の要求が「末法思想が人々に受け入れられた」理由、条件が「当時の社会状況に留意」。リード文では「10世紀後半」とあるので、この平安中期ごろの状況と結びつけると良い。
問7.解答 (1)らいごう (2)臨終の際に阿弥陀如来が迎えに来ること。
解説 (1)どうやら北大では歴史用語の読みを問う問題が昨年度も出されていたらしい。教科書を音読することも大切なのね。(2)「来迎」の意味としては、ほとんど漢字のままだけど、「阿弥陀如来が」という主語がここでは必須。
問1.解答 ア:源頼家 イ:西面の武士
解説 鎌倉時代の政治史の基本問題。「源実朝は…殺害され」「後鳥羽上皇は…院庁警護のため…新しく設置」あたりがキーワード。
問2.解答(1)『新古今和歌集』 (2)藤原定家(藤原家隆なども可)
解説 鎌倉時代の文化史の基本問題。「後鳥羽上皇の命」「勅撰和歌集」あたりがキーワード。
問3.解答 京都守護のもとで、天皇や院の御所を警備する京都大番役を担当していた。(34字)
解説 設問の要求は「在京中の御家人たちは、主にどのような役職につき、いかなる任務を担当していたか」説明すること。「在京」とあることから、京都大番役のことを想定したい。
問4.解答 (1)六波羅探題 (2)新補率法
解説 鎌倉時代の政治史の基本問題。承久の乱の結果、京都には六波羅探題が設置され、上皇方から没収した荘園に新補地頭を設置し、段別5升の加徴米などの新補率法が定められた。
B ジョアン=ロドリゲス『日本教会史』 #室町時代 #文化史 #史料問題
問5.解答 村田珠光
解説 室町時代の文化史の基本問題。「茶の湯」の「始祖」がキーワード。村田珠光→武蔵紹鷗→千利休と茶の湯は発展。「和漢の境をまぎらかす」が村田珠光の主張と判断するのは難しい。
問6.解答 会合衆
解説 堺の自治組織が36人の会合衆、博多の自治組織が12人の年行司、京都の自治組織が月行事。
問7.解答 嘉吉の変により将軍家の権威が低下し、嘉吉の徳政一揆以降、幕府は徳政令を頻発し、土倉役や酒屋役の徴収が困難になったため。(59字)
解説 設問の要求は「将軍家の財政難は、いかなる事件や変動によってもたらされた」か説明すること。条件として、「「東山殿」と呼ばれた人物が将軍になる前の出来事に注目」すること。まずは条件の「東山殿」であるが、問題文中に「東求堂堂仁斎」についての説明もあり、8代将軍足利義政のことであることはすぐに判断できる。足利義政が将軍になる前の「事件や変動」となると、6代将軍足利義教が殺害された嘉吉の変、そしてその後の嘉吉の徳政一揆などの土一揆を想定したい。これらと将軍家の財政難を結びつけるとなると、徳政令により高利貸し業者が打撃を受け、幕府の収入である土倉役・酒屋役に影響が出るのではないかと考察することになる。これも出来事の因果関係を考えさせる、ある種の歴史的思考力を試す問題か。
問8.解答(1)ルイス=フロイス (2)中立の立場で日本のことが記されているという長所があるが、先入観や偏見が含まれているという短所がある。(50字)
解説 (1)は「『日本史』などを著したイエズス会宣教師」がキーワード。(2)は設問の要求が「外国史料」がもつ長所や短所を説明すること。条件は「日本の史料」と比べること。「日本の史料」となると、寺院や貴族、武士が残した日記や記録があるが、これらはそれぞれの立場で記されており、外国史料の場合、日本国内におけるそうした立場から見たバイアスがかかっていないため、ある種中立な見方が出来るという利点が考えられる。もっとも、当然キリスト教宣教師の残した史料であれば宣教師の立場から述べられた史料であり、厳密には中立とは言い難いかもしれない。また、当然日本に対する彼らのバイアス、偏見や誇張が含まれているという欠点も考えられる。しかしこうした複数の史料を活用することで、過去の歴史像をより鮮明に捉えることが出来る。史料の性格を問うた、これも歴史的思考力を試す問題である。
第3問 史料1『折りたく柴の記』 #江戸時代 #政治史 #経済史 #史料問題
問1.解答 荻原重秀
解説 『折りたく柴の記』が新井白石の著書とわかることは大前提。しかし史料文からだけでは判断しづらかったが、問2で「勘定吟味役」と記されていることから答えが導ける。
問2.解答 (1)金の含有比率を下げて元禄小判改鋳を行い、差益を得たが、貨幣価値が下落して物価が高騰し、庶民の生活を圧迫した。(54字)(2)慶長小判と同率まで金の含有率を上げて正徳小判改鋳を行ったが、再度の貨幣交換は混乱を招くこととなった。(50字)
解説 設問の要求は(1)が「此人」の財政政策とその結果、(2)が「筆者」の財政政策とその結果を説明すること。江戸時代の経済史の基本問題。(2)の正徳小判改鋳の結果についてはやや説明しがたい。
史料2『宇下人言』#江戸時代 #政治史 #経済史 #史料問題
問3.解答 打ちこわし
解説 下線部の前「米価俄に高値に成」、下線部中の「豪富之町家をうちつぶし」から判断できる。
問4.解答 (1)田沼意次 (2)年貢増徴だけにたよらず、株仲間の積極的な公認や運上・冥加の増収など、経済活動を活性化させて商人の力を利用しようとした点。(60字)
解説 『宇下人言』が松平定信の著書とわかることは大前提。「定信」という漢字を分解すると「宇下人言」となる。(1)は定信が批判していること、「天明6年に失脚」から田沼意次と判断したい。(2)は設問の要求が田沼意次の財政政策について「どのような点で従来と異なる政策」か説明すること。「従来」の政策が年貢増徴に重きを置いていること、田沼時代が商人の力を利用したことといった違いを説明する必要がある。
問5.解答 場所請負制度
解説 蝦夷地において、商人が「商場の経営を請け負っていた」制度なので、松前藩の家臣が交易権を与えられた商場知行制から変化した、場所請負制度のことである。
問6.解答 ウルップ(得撫)
解説 「最上徳内」が到達した場所だが、「クナシリ島、エトロフ島を経て」とあるので、現代の北方領土の知識があれば答えやすい。
史料3『阿部正弘事蹟』#江戸時代 #政治史 #文化史 #史料問題
問7.解答 水野忠邦
解説 史料が阿部正弘についてのものだとわかれば、阿部正弘の前に「改革」を行い、「退」いた人物として、天保の改革を行った老中、水野忠邦を想定したい。
問8.解答 為永春水
解説 江戸時代の文化史の基本問題。「『春色梅児誉美』」の作者で、水野忠邦の改革時に処罰された人情本作家。
問9.解答 異国船打払令(無二念打払令)
解説 江戸時代の政治史の基本問題。「蛮社の獄」で蘭学者たちが批判した、「当時の対外政策を象徴する法令」とあるので、モリソン号を打ち払った際の根拠となった異国船打払令のこと。
問10.解答 ペリーの来航に際し、朝廷に報告し、諸大名に意見を述べさせたが、朝廷の権威を高め、諸大名の発言力を強めたと評価される。(58字)
解説 設問の要求は「ペリー来航後に阿部正弘が朝廷と諸大名に対して行った施策」の「内容とその歴史的評価」を述べること。前提として、徳富蘇峰の『近世日本国民史」などを挙げ、阿部正弘が「優柔不断」と評価されていることが触れられている。江戸幕府はこれまで譜代大名・旗本だけによる国政運営を行っていたが、ペリー来航に際してはこの方針を転換し、朝廷への報告・外様大名も含めた諸大名からの意見聴取を行った。安政の改革ともされるこの施策は、結果的に朝廷の権威を高めて、徳川斉昭や松平春嶽・島津斉彬ら諸大名の幕政に対する発言力を強めることとなった。「歴史的評価」としてはこの辺りのことを触れると良い。
第4問 A 近代の重化学工業 #明治時代 #大正時代 #昭和時代 #経済史
問1.解答 ア:八幡製鉄所 イ:帝国国防方針 ウ:企画院
解説 近代の政治史・経済史の基本問題。アは「戦前期日本の最大の製鉄所」「日清戦争の賠償金をもとに建設」がキーワード。イは「日露戦争後」「八・八艦隊」が示されたというところから判断。ウは「日清戦争勃発後の戦時経済」「物資動員計画を作成」あたりがキーワード。
問2.解答 ドイツ権益を接収しようと、ドイツの根拠地である山東省の青島に軍を進め、占領した。(40字)
解説 設問の要求は「第一次世界大戦」の日本の参戦に際して「中国で実際に起きた戦闘」について説明すること。「実際に起きた戦闘」というと、より具体的な場面も想定できるが、ここでは日英同盟を理由に参戦し、中国における権益拡大のため、ドイツの根拠地の青島を軍事接収したことを述べたらよいだろう。
問3.解答 金融恐慌
解説 近代の経済史の基本問題。「戦後の不況」「震災手形の処理法案審議をきっかけに発生」から判断。大正~昭和の恐慌については原因・結果を理解しておくと時代の動きが分かりやすくなる。
問4.解答 ワシントン海軍軍縮条約・ロンドン海軍軍縮条約
解説 近代の政治史の基本問題。「2つの軍縮条約」「軍艦製造も停滞」で判断。
問5.解答 (1)日本窒素肥料会社 (2)鞍山製鉄所
解説 近代の経済史のやや見落としがちな問題。(1)「朝鮮」で「化学工業コンビナート」と言えば野口遵の日本窒素肥料会社。新興財閥として、日窒コンツェルンを形成していく。(2)「満州」の「最大の製鉄所」と言えば鞍山製鉄所。二十一か条の要求で得た鉱山採掘権をもとに満鉄が設立。
問6.解答 アメリカ軍への武器や弾薬の製造などにより特別な需要が発生したこと。(36字)
解説 朝鮮戦争における「特需」についての説明。単に需要が増大しただけでなく、その内容について触れること。
B 近代の都市形成 #大正時代 #昭和時代 #社会史 #外交史
問7.解答 エ:サラリーマン オ:デパート カ:トーキー(有声映画)キ:サイパン
解説 近代の文化史・政治史としてはやや見落としがちなところも出題。エの「俸給生活者」はそのままだが、オの「新しい小売店の形態」については、大衆文化の例として説明される。リード文中の「のちの阪神急行電鉄」「梅田に」「ショーウィンドーや陳列台を用いた」など、関西圏の人からすれば阪急やん、となる。カは「活動写真」が「画面と音声が一体」となればトーキーと呼ばれた有声映画、キは「1944年」の陥落、「空襲の被害」から想定したい。
問8.解答 義務教育の就学率も90%を超え、大学令が出されて高等教育の充実が図られたため。(39字)
解説 設問の要求は「1920年代」の「読者層の拡大」の前提条件として、「市民の学歴が向上した理由」を説明すること。1920年代の読者層と言えば、日露戦争後に義務教育を受けるようになっていった世代であり、1918年に原敬内閣により大学令が出されたことも学歴向上の一因であろう。
問9.解答 ポツダム宣言発表後も受諾しない日本に対し、アメリカは広島と長崎に原爆を投下。その間にソ連が参戦して満州や朝鮮に侵入した。(60字)
解説 設問の要求は「ポツダム宣言発表から、日本の受諾に至る期間の戦局の推移」について説明すること。聞かれているのはあくまで「戦局の推移」なので、8月6日に広島に原爆投下→8日にソ連が対日参戦→9日に長崎に原爆投下という流れをまとめればよいが、60字以内なので簡潔に記す必要がある。
以上で終わり。古代・中世では割と歴史的思考力を試すような出題も見られたけど、近世・近代はほぼ知識・理解で解く問題だったなぁといった印象です。思ったよりも解説に時間がかかってしまったわりに当たり障りのない感じになりました。
次は北大の世界史に挑戦かなー。
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