伏兵
家内が帰宅しなくなってから、マッサージを、とんとしなくなったのであるが、我が家には、伏兵がいることを忘れていた。
長女が、1月末から我が家に帰ってきていて。そして、再就職をして、我が家から通っている。
長女も、マッサージをしてほしいと、よく、我が家にいるときには言われていた。だが、家内とは流儀が違って。少し力を入れないと、満足しないのである。だが逆に、強すぎると、痛い痛いと大袈裟に悲鳴をあげる。
ある土曜日のこと。長女も、休みで。私も、長女も、それぞれができる家事に取りかかっていて、そろそろ一息つけそうな時間帯になっていた。
長女は映画好きで。学生の時に、映画の文化について取り上げるゼミに入っていたのも影響していると思うが、映画館にも行くし、家で配信を見ることも、よく、する。
家内のように、テレビをつける。そして、スマホの配信の映画をテレビの大画面で映し、見ていた。
そして、こう、言った。
コジくん、マッサージしてくれても、いいよ。
……。
家内のマッサージは無くなってきたが、思わぬ伏兵がいることを忘れていた。
不意を突かれた私は、しばらく黙っていたが、無視しきれず、左右15分ずつね。と、タイマーをつけて、やる羽目になった。
幸いにして、長女は、ハーフクール(注1)で、諦めてくれた。まさか、家内が、1クール、2クールやっているとは、思っていないらしい。
そして、力の入れ加減のことだが、家内よりも少し力が必要だったが、いろいろと調整をしているあいだに、家内と同じくらいの力の入れようが気に入ったようだ。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
まあ、これくらいならば、許容範囲だな。
そして、しばらくソファーを離れていた。
すると、また、催促してくる。
そして、いま、すぐ、やれと、せっついてくる。それを4回。繰り返した。
ちょっと、長女は、たちが悪い。
結局は2クール、分散してやらされる羽目になった。
家内は、あるプロジェクトに参画していて。仕事が忙しくて、事務所の側のホテルに寝泊まりしている。日曜日の深夜に戻り、月曜日の昼過ぎにはまた、ホテルに泊まりに行って、そこで仕事をしているのである。
マッサージは、とんと、しなくなった。そのかわりに、家内の健康のことを心配をしている。これならば、マッサージをしているほうが、よほど良かった。
いやいや……。
心の中の、リトルkokuroが、本心に反して、ボソリと呟いた。
さっちゃん(注2)がいなくて、マッサージの腕が落ちるところだった。
これで、自主トレできて良かったかもよ。
やりとりからすると、さっちゃん(注2)は、元気なようである。
だから。
これで、いいのだ。
(注1)我が家のマッサージは、家内が録画したドラマやバラエティ番組を見ながら行うことが基本なのである。1クールとは、ドラマ一本分。つまり、1時間、ハーフとは30分。クゥォーターとは15分を、意味する。
(注2)我が家の家内の呼称は、「さっちゃん」である。さっちゃんは、女王陛下という別の呼称もある。だが、リキとの関係で、そもそもの飼い主が長男であることから、私は、おじいちゃんだが、家内に対して「おばあちゃん」なんて呼び方は、まかり間違っても、してはならないのである。