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日本政治の裏側


今回取り上げる本は一冊ではありません。僕が政治に興味を持ち、進路を決めるきっかけになったと言ってもいい本です。三宅久之さんの『政権力』、『ニュースが伝えない政治と官僚』、『三宅久之の書けなかった特ダネ』の3冊です。『政権力』は民主党の政権交代前に書かれた本で、『ニュースが伝えない政治と官僚』は政権直後で、『三宅久之のかけなかった特ダネ』は菅内閣が発足してしばらくして書かれた本です。3冊を取り上げた理由は国政がどのようなものであるかを知る上で非常に簡単にまとめられた本であること、1冊ごとに切り離すよりもまとめて紹介するほうが各本とのつながりがよくわかるからです。特に『政権力』と『ニュースが伝えない政治と官僚』は続けて読むべきだと思っています。


三宅先生は10年ほど前に亡くなられていますが、毎日新聞の記者として働かれた後に、独立され、政治評論家としてご活躍されました。三宅先生は吉田政権の時に記者として取材をされ、数々の政治家を取材され、総理大臣経験者ともつながりがあり、戦後の日本政治の裏から表までを知る数少ない方でした。独自の取材を売りにしているモーニングショーのあの方とは違い、自らの取材で得た情報を緻密に分析されていました。


今何かと話題の河野太郎さんは祖父・河野一郎さんや大叔父の河野謙三さん時代からの付き合いで、元衆議院議長の河野洋平さんも若いころから三宅先生と付き合いがあるようで、その詳細は『三宅久之の書けなかった特ダネ』にも書いています。おそらく、河野太郎さんの小さい頃からよく知っていたと思います。麻生さんや二階さん、小沢さんのような超重鎮と呼ばれる国会議員の方が政治家になられる前から記者としてバリバリ働かれていました。駆け出しの記者をしていたころが吉田内閣の時代で、水を掛けられたこともあったようです。以前取り上げた石平さんの『私はなぜ「中国」を捨てたのか』を読まれて、石平さんの日本人となる覚悟に涙されるほど感動されたと仰っていました。テレビでは怒っている印象が強いかもしれませんが、非常に人間味あふれる方であり、靖国神社で飾られている花嫁人形を見て、涙されており、その姿が非常に印象的でした。三宅先生の人柄が大物政治家ともいい関係を築くことができたのではないかと思います。
三宅先生は安倍さんが総理大臣に復帰されることを望んでおられましたが、残念ながら、2012年の衆院選挙の前に亡くなられました。三宅先生の言うことは厳しいですが、単なる批判ではなく、必ず筋の通ったことを仰っていました。そして、政治の難しさや内情もよくご存じでしたので、プロセスの難しさもしっかりと把握されており、絵空事を並べるだけで終わるようなことはなく、しっかりと筋道までも示されていました。政治家の方にズバズバと意見を仰っていました。最近のコメンテーターと呼ばれるような人たちは全く異なり、非常に現実的かつ建設的な議論を好まれていましたし、政治家の方としっかりとした関係があったからこそ、厳しい意見が言えたのではないかと思います。。ご存命であれば、今の野党の体たらくを見て、喝を入れていたことは間違いありません。

ここからは本の内容について書いていきます。『政権力』は時の内閣に求められるものであったり、宰相としての資質であったりが書かれています。長期政権と短期政権との違いは何かについても触れられており、連立党の関係なのか、党内政治なのか、霞ヶ関との関係なのかについても書かれています。よくあるスキャンダルで支持率が下がり、内閣が総辞職するというようなワイドショー的な分析ではなく、これまでの短命政権が歩んだ歴史からその答えが書かれています。時の政権への評価になりますので、最低限の政治の知識は必要ですし、国会と内閣の役割の違いをしっかり把握する必要があります。政治の知識に自信がない人は次に紹介する本がおすすめです。

『ニュースが伝えない政治と官僚』はマックス・ヴェーバー同様、政治家と官僚の違いについて触れ、さらに国会議員の仕事や選挙について書かれています。取り上げた3冊の中では教科書に近い内容になっていますが、日本の政治制度や国会議員の仕事を簡単にまとめた1冊です。国会や内閣の役割や仕事を知ることができるだけでなく、現場を見てきたからこそ書けることが書かれています。公民の教科書でもここまでコンパクトにまとめることはできないでしょう。政治の基礎知識を知るには最適な本です。政治を一から知りたい向けです。民主党が政権交代した直後に書かれた本なので、民主党への期待の高さやマニフェストの実現可能性の可否についても最後に触れられています。

『三宅久之の書けなかった特ダネ』は戦後政治史の裏側を記した本です。自民党内での駆け引きであったり、当時の社会党との駆け引きであったりが書かれています。この3冊の中では、三宅先生の関わりのあった政治家とのエピソードがメインであり、日本政治の回顧録と言えるような本です。現代史の教科書のように無機質にその当時にあった出来事が列挙されているのではなく、筆者の体験を交えながら書かれています。『政権力』はそれぞれの政権を分析して書かれている本であるのに対して、この本は各政治家とのエピソードが書かれており、分析という分析をしている本ではありません。しかし、『政権力』で書かれていることの基となったことがこの本に書かれています。

これらの本は政治学者が書いた本ではありませんが、日本政治や政治機構、政治過程を学ぶ上で重要な本だと言えますし、戦後の日本政治史が書かれている貴重な本です。まさに政治が決めごとであることがわかります。卒論を各段階で読む本というよりかは政治学の初学者や政治を知りたいと思われる方向けの本です。ある程度、政治に知識のある方は物足りなさを感じるかもしれませんが、日本政治の裏側を知れる貴重な本です。専門書のような細かいことや理論について書かれていませんが、三宅先生が見たことや聞いたことを基に書かれている本ですので、実際の国政運営で内情がよくわかります。政治に対して単に喝を入れる煽り系コメンテーターとは違い、冷静な目でしっかりと分析されていることがよくわかります。新聞記者出身なので、メディアに携わる人としての矜持も感じられる本です。メディアに携わる人も読むべき本です。残念なのは、もう亡くなられていることです。もし、今もご存命であれば、第二次安倍政権や菅政権、そして岸田政権の論評を聞きたかったです。

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