マガジンのカバー画像

感想文

17
読了した本などの感想文集です。
運営しているクリエイター

#読書感想文

『変身』カフカ・フランツ【読書感想文】

「あいつがわれわれのことをわかってくれたら」

あらすじ ある日、主人公のグレゴールが目を覚ますと毒虫になっていた。毒虫になったことで、寝台からも起き上がれず、家族からも家族も徐々に見放されてしまう。確かに人間だったグレゴールもだんだんと自分が「自分」であることを見失っていくーー。

感想 素晴らしい小説というのは、読者には想像もつかないような心理描写が数多くありますね。この小説もその例に漏れず、

もっとみる

『夕映え天使(琥珀)』浅田次郎【読書感想文】

「おとうちゃんな、大手柄を立てた」(『琥珀』より)

あらすじ(※『琥珀』のみです)

 六篇からなる短編集。人間模様から滲み出す「喜怒哀楽」を巧みに描写した作品。 米田は定年間近の警官で、一人旅をしていた。汽車を降りた街で、寒さを凌ぐため喫茶店に立ち寄る。そこで、喫茶店「琥珀」のマスターと出会った瞬間に米田は頭に何かがよぎるーー。

感想 唸りました。率直に、素晴らしい作品でした。短編でこの衝撃

もっとみる

『背高泡立草』古川真人【読書感想文】

「納屋の草は刈らねばならない」

あらすじ 大村奈美の実家であり、敬子が暮らす長崎にある納屋。その納屋の草刈りに、親族らで向かうこととなる。奈美は敬子や伯父の話を聞き、吉川家と納屋が過ごした時間と人の話を知る。草木で堆くなった納屋を軸に過去と未来に想いを馳せるーー。

感想 今年の芥川賞作品。一気に読みました。 正直な感想は「うーん、なるほど」です。福岡と長崎の方言が、各時代の方言の書き分けはなか

もっとみる

『陰翳礼讃』谷崎潤一郎【読書感想文】

あらすじ 西洋と日本との美意識について語られた随筆。
西洋は、暗い場所を消し、明るさに美を見出すことに執心した。一方で日本は暗さ(陰翳)にむしろ美を見出し、その暗さに調和するように芸術を昇華させていった。

感想 参りました。色褪せません。
冒頭からずっと、分かるなぁ、と思って読み耽りました。確かに障子は鏡張りより、紙。厠(トイレ)が離れにあって冬寒いなぁ、遠いなと思ってもその寒さと遠さがなんだか

もっとみる

『キチガイ地獄』夢野久作【読書感想文】

「これは怪しからん。どこがトンチンカンですか。私は立派に順序を立ててお話ししているつもりですが……」

あらすじとある重罪人を追って調査を続けていた新聞記者Aが、入院している病院の医院長へ語りかける形式で進む短編小説。 終盤までは件の重罪人と呼ばれる男についての経歴が語られる。 しかし、終盤に向かうにつれて話の辻褄が狂い始め、気がついたときには……。

感想 今回も、敬愛する夢野久作先生の小説です

もっとみる

『堕落論』坂口安吾【読書感想文】

「人はあらゆる自由を許されたとき、自らの不可解な限定とその不自由さに気づくであろう」

あらすじ 戦後社会について書かれた小説。戦時中、日本を覆った支配的な権力によって、国民を戦勝という大きな目標へ突き動かした。 しかし、戦後となりその目標を失ってしまう。坂口安吾氏はその「堕落」した姿こそが生来の人間のあるべき姿であると説いた。戦後文壇の代表的作品。

感想 今でも時折、読み返す一冊です。
「戦争

もっとみる

『肉体の学校』三島由紀夫【読書感想文】

「こんなに二人が、何も心なんか要らないほど、純粋に身体だけで愛し合ったことはなかったような気がした」

あらすじ 浅野妙子は、離婚後に洋裁店を立ち上げ、成功していた。ある日、友人から素敵なバーテンダーがいる、と誘われて訪れたゲイ・バアで佐藤千吉に一目惚れする。そこから、2人の関係が始まりだした。感情を揺り動かされならも、妙子の千吉への気持ちは強まる一方であるが……?

感想 対比的な表現が美しく構

もっとみる

『ダンス・ダンス・ダンス』村上春樹【読書感想文】

「あまり人には好かれないけど、人の嫌がることはしない」p.82

あらすじ 魅入られたように再び訪れた「いるかホテル」突如、不思議な空間に迷い込み「羊男」との再会を果たす。

「踊り続けること」

と告げられた主人公は、その後とある事件に巻き込まれてゆく。失ったものを取り戻すために、事件へと立ち向かう。『羊をめぐる冒険』から四年後の世界を描く物語ーー。

感想 村上春樹さんの小説は、歯応えバツグン

もっとみる

『桜の森の満開の下』坂口安吾【読書感想文】

「桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません」

あらすじある山に住んでいた男は、とても美しい女に心を奪われる。男は悪事の限りを尽し、女の望むものを与えます。女の要求は、残酷なものであり次第に男は山での暮らしを懐古し始める。そして、満開の桜の下へーー。

感想 坂口安吾氏の戦後代表作品です。戦争が終わり「それまで」と「これから」をどう日本国民は、生きるのだろうか。そんな問いがあるような、読後感で

もっとみる