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「土間お化けのいた夏」 お盆の思い出
「僕の昭和スケッチ」89枚目
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<「土間お化けのいた夏」© 2021 もりおゆう 原画/水彩 サイズF5>
子供の頃、ある夏の盆に奇妙な夢を見た。
こんな夢だった、、、
私は土間に立っており、ふと見ると、土間の鴨居の上をまっ白いハツカネズミが渡って行く。そのネズミは見る間に窓の外に姿を消し、その窓の向こうには縁日ののぼり旗が見えた。祭り囃子も聞こえて来たので、「ああ、隣の神社でお祭りをやっているんだな」と私は思った。
さて、その夜の事。
眠ったかなと思うと、何か気配がし、寝所に隣接している台所に目をやった。すると、白い靄(もや)のようなものが土間にぼんやりと漂っている、、、
目を凝らすと、それは次第に人形(ひとがた)になり、台所から音もなくタタキを上がり寝所の蚊帳に進んで来る。
私は恐ろしくて、隣に寝ている両親を起こそうとするのだが金縛りにあって身動きできない、、、
それから、どうなったのか、、、全く記憶がない。
明くる朝、土間で母親にその事を話すと母親はにべもなくこう言った。
「夢でも見たんやわ。白いハツカネズミも夢、祭り囃子も夢、大体お隣は神社やないやろが。魚屋さんや、神社は隣町! タワケやねぇ、この子は、、、 オバケが夢に出たんやわ、、」
確かに母親の言う通りで、きっと最初からみんな夢だったのだ。
だが、自分の五体にはそんな理屈ではどうしても片付けられない妙な感じが残っていた。
昨夜感じたあの「気配」のようなものだけは本当だったのではないか、、、
そんな疑念がぬぐい去れなかった。
その時、縁側でエンドウを剥きながら私たちの話しを聞いていた祖母がポツリと口を切った。
「それは、土間お化けと言うものじゃ。お盆に出よるのじゃて。」
と。
母親が、「あかんて、そんな事言ったら、お婆ちゃん! 子供が又怖がるで、、、この子、神経病みなところがあるで、、、」とあわてて祖母を嗜(たしな)めた。
けれど、母がそう言うのを聞くと、私は却って祖母の話しが本当のように思えてならなかった。
幸い、その後土間お化けは現れず、他の人から土間お化けの話しを聞いた事もない。
成人してから、美濃地方にそんな奇譚があるか調べてみたが、ついとべしょと同様に良く判らず真偽の程は定かではない。
*祖母は、ついとべしょの話しをしてくれたり、美濃地方に伝わるそういう夜話や怪奇譚をよく話してくれた。ちょっと変わった人だった。
<© 2021 もりおゆう 禁/無断転載>
(This picture and text are protected by copyright. 2021.Yu Morio)