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「田舎の叔母ちゃんと饅頭とお茶」昭和の縁側
「僕の昭和スケッチ」111枚目
<画 ©2021もりおゆう 水彩 サイズF5>
お饅頭や羊羹等の甘いものを食べた後に日本茶を飲むと、甘さと苦さが口の中で渾然となって何とも言えず美味しいものです。
けれど、僕の田舎の叔母ちゃんは何故かそんな時に絶対にお茶を飲まなかったのです。
ある日、母と在所を訪れた際に僕が「叔母ちゃんは、何で饅頭を食べた後にいつもお茶飲まんのや? 美味しいで」と尋ねた事があります。
すると、叔母ちゃんは僕にこう答えたのです。
「何でて、あんた、判らんかね?
せっかく口の中が甘うなっとるのに、茶なんぞ飲んだら台無しやないか、勿体ないわい」
叔母ちゃんは、戦時中に砂糖の代用品のサッカリン*を経験した世代の人でした。だから、そんな風に本当の砂糖の甘味を大切にしたわけです。
「姉さはいつもそう言って昔からお茶なんか含まんのや、、、わしらは、そんなこと思わへんけどね」
と母が僕に笑いかけました。
その叔母ちゃんも母も、もう随分前に亡くなりました。
陽の当たる古びた縁側で口をもぐもぐさせながら、幸せそうに甘味の名残を楽しんでいた皺くちゃの顔が今でも目に浮かびます。
「叔母ちゃん、天国でお饅頭を食べ過ぎんようにね、、、」
(*)サッカリン (saccharin) は、人工甘味料の一つ。摂取しても熱量(カロリー)とならない。第一次世界大戦が始まって砂糖が不足すると急速に普及した. うちの母も戦中戦後にサッカリンの入った菓子を食べた口だが、味は砂糖とは比べるべくも無いと話していた. カロリーが無いため、その後ダイエット用品として扱われた.
<©2021もりおゆう この絵と文は著作権によって守られています>
(©2021 Yu Morio This picture and text are protected by copyright.)