想い出を閉じ込めた写真。
大好きな人がいた。
私のちっぽけな世界を、めいっぱい広げてくれる、
素敵な人だった。
彼と交わした幾千もの言葉は、今となってはあまり覚えていない。
でも、私の中にずっと残り続ける言葉がある。
彼は、私のどこが好きかを人に尋ねられた時、
私の横で、真っ直ぐな目をして、
『一生懸命なところ。』
と、答えてくれた。
平々凡々な言葉だと思うかもしれないが、
可愛いや綺麗、数多ある褒め言葉の中で、彼が選んでくれたこの言葉が、私はとても嬉しかった。
昔からそつなく何でもこなせるように見られがちな私は、その裏にある泥臭い必死な努力を、他人にはあまり見せてこなかった。
でも、その泥臭い部分を見ていてくれて、認めてくれて、そこが何より好きだと言ってくれた。
その言葉に私は少し泣きそうになった。
まだ10代で、未熟だった初めての恋。
恋をすると、世界が輝いてみえるって本当だった。
彼の言動、身に纏うもの、全部素敵で、
彼の聴く音楽は、すべて私も好きになったし、
彼の言葉1つで、落ち込んだり、舞い上がったり、
ただただ、大好きで、
これからも私は彼の隣にずっといるものだと、
当たり前のように思っていた。
手放してしまったのは、自分からだった。
何度も後悔したし、
彼を想って眠れない夜もあった。
しかし、時の流れというのは残酷で、
一度手放してしまったものは、『過去』になる。
流れてしまったら、テープみたいに巻き戻せるものじゃない。
写真に映る夕焼けは、
彼と初めて2人で出かけた時に偶然見れたもの。
こんなにも綺麗な夕焼けは見たことがなかったし、
今もこのときほど綺麗な夕日には、出会っていないように思う。
しかし、それもまた過去の記憶。
きっと今、彼の隣にいられたとしても、
こんなにも綺麗な夕焼けは二度と見られないだろう。
だから、私は、
この眩い写真に彼との想い出を全て閉じ込めて、
今を生きたいと思う。
写真に収めるような過去じゃなくて、
自分の目に映る今が、夕焼けよりも美しいと、
胸を張って言えるように。
これから先も、彼は、私の人生を語る上で、
欠かせない登場人物であり続けるだろう。
そんな彼に、私の過去の一点で出会い、
私の世界にたくさんの色が加わったこと、
眩しいほどに輝かしい想い出たちと出会えたこと、
心から感謝している。
どこかで、彼の今が、幸せでありますように。
柚。