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救いのない物語を読むことが私の救い 〜「私の消滅」を読みました〜


中村文則さんの「私の消滅」を読みました。
「私」って何だろうと、思いました。

物語の中で、電気ショックで記憶を消し、新たな記憶を刷り込ませることで人格を変えるという描写があります。

人間とは、そのくらい曖昧なものなのでしょう。
私の脳内に電気を流して、別の人格の記憶を刷り込ませてしまったのなら、私は消滅し、私はもう自分の人生を生きることはなくなる。

私を消滅させなければ生きていけない人もいる。
あの記憶さえなければ。あんな自分さえなければ。
自分なんて消してしまいたい。そうやって苦しむ人たちがこの世界には確実に存在している。

幸いなことに、私は私を消滅させたいとは思っていない。
確かに、自分の嫌な部分は存在する。
だけど、それも含めて自分なんだと、まぁそれなりに前を向いて人生を歩めている。

私を消したい。でも私なんてそう簡単に消せない。
だから人生は苦しい。自分を消してしまえる世界に憧れたりもする。

この物語は、決して明るいものではありません。
けど、自分を消してしまいたくなるほどの苦しみがこの世界に存在することを理解できたなら、今の人生を少しだけ愛せると思うのです。
救いのない物語に、私の人生は救われているのかもしれません。

ハッピーエンドの物語を読むのは、とても心地が良いです。
でもたまに、人生の絶望に触れてみることで、逆説的に人生が楽になることもあるのかもしれません。

私を消滅させなくても、苦しみながらどうにか生きられている人生。
確かに存在する、私を消滅させなければとてもじゃないけど生きてはいけぬ人生。そうなる可能性だって0%じゃなかった私の人生。

ありがたいよね。
奇跡に感謝だ。

この仄暗い物語が、私の人生を少しだけ明るく照らしてくれている。だから読書って素晴らしい。素敵な本との出会いをありがとうございました。

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