奈良の大仏様はどう教えられてきたのか?(4)天皇はいばってる?③ー歴史授業の進化史・古代編
もくじ
(1)はじめにーならの大仏さま
(2)天皇はいばってる?ー金沢嘉市氏の授業
(3)民衆を苦しめた?ー山下國幸氏の授業
(4)壮大な無駄?ー向山洋一氏の授業
(5)大仏よりも薬・病院?ー米山和男氏の授業
(6)オールジャパン・プロジェクトー安達弘の授業
(7)日本人と天皇と王女クラリス
(8)三島由紀夫と歴史教育
(2)天皇はいばってる?ー金沢嘉市氏の授業③正しい教材化とは
子どもに「天皇はいばっている」と感想文に書かせることになってしまった金沢氏は学習に使用する歴史資料というものをどうとらえているのだろうか。子どもが読む資料なので、原文すべてをそのまま提示するわけにはいかないのは理解できるが、当時の人々の意図がまちがって伝わる可能性がある提示は厳に慎まなければならない。
ちなみに『日本書紀』に続く正史『続日本紀』の「聖武天皇」の章を見ると聖武天皇は在位25年間で約120の詔勅を出している(ちなみにどちらも天皇の命令を伝える文書でどちらも「みことのり」とも読む。なお「詔」は臨時の大事、「勅」は通常の小事に用いられた)。
その中で租税負担の軽減や社会的弱者への救済、犯罪者への恩赦など民衆に対する何らかの福祉政策に関わるものは約40もある。前掲書の『続日本紀(上)全現代語訳』からそのいくつかを拾って見てみよう。
①神亀三年(七二六)六月十四日
民の中には長患いにかかり、治らない者、あるいは重病にかかり昼夜苦しんでいる者がある。朕は民の父母として、どうして憐れまずにおられようか。医者と薬を左右京・四畿内および六道の諸国に送り、このような病に苦しむ者を助け治療し皆に安らぎを得させ、病の軽重に応じ籾を与え恵みを加えよ。
聖武天皇は民の医療政策を充実させるように、と言っている。
②天平二年(七三〇)九月二十九日
京および諸国に盗賊が多く出ている。人家に侵入して略奪したり、海上において賊をはたらいている。人民を損うことこれよりひどいものはない。各地の官司は厳しく逮捕の手段を講じ、必ず生捕りにさせよ。
犯罪への対応と治安維持に関する命令である。
③天平四年(七三二)七月五日
天下に赦を行なえ。天平四年七月五日の夜明け以前に、流罪以下の罪に服している者、現に獄につながれている囚人はすべてゆるす。但し八虐や却賊(却かして盗む賊)、法を枉げて収賄した官人、監督・支配すべき責任者でありながら盗みを働いた者、自己の管理下にある物資を盗んだ者、強盗・窃盗・故意の殺人、にせ金づくりなど、通常の赦で許されない者は、今回の赦に入れない。
いわゆる恩赦である。罪を許したり減じたり、その範囲もいろいろなパターンがあるが、基本的に凶悪なものは恩赦されていない。なお「八虐」とは律に定められた重罪のことで国家と社会を乱すものとして大赦でも許されない。
④天平五年(七三三)閏三月二日
和泉監・紀伊・淡路・阿波などの国は旱魃が特にひどく、五穀が実らなかった。そのため今年中は大税を無利息で貸して(大税は利息五割)、人民の生業が続けられるようにせよ。
自然災害に対する救済策である。「大税」は「おおちから」と読む。
⑤天平七年(七三五)十一月十七日
高齢で百歳以上の者には籾三石を、九十以上の者には籾二石を、八十以上には籾一石を与える。孝子・順孫・義夫・節婦は、その家と村里の門にその旨を表彰し、終身租税を免除する。□・寡・□・独や重病人で自活できないものに対しては、その地の官司が程度を量って物を恵み与えよ。
災害の発生や流行病対策としての救済策である。こうした救済策は繰り返し行われている。親孝行な子や孫、真面目に過ごす夫婦を表彰して租税免除の政策が行われているとはちょっと驚く。
奈良の大仏の授業では「廬舎那仏造営の詔」の意図を正しく伝える教材化が必要である。それが聖武天皇と奈良の大仏に関する正しい理解をもたらす。
さらに、上記の①~⑤の記述を補助教材として提示したら子どもたちの聖武天皇観及び奈良時代のイメージはより豊かなものになることだろう。
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