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『三宅雪嶺人生訓』一〇

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/933730/1/20

〇職業無きもの
 職業は人として欠くを得ず、事業の為に必要ならずんば、己れの精神の健康、或る点に於て身体の健康を維持するに必要なり。職業なき者は、己れ自らを傷〔そこな〕ひ、併せて世に害を与〔あた〕ふ。

『日本及日本人』、『三宅雪嶺人生訓』四~五頁

【現代語訳】
〇職業がないということ
 職業は人として欠かせないもので、事業のために必要でなくとも、自分の精神の健康、あるいは身体の健康を維持するのに必要なことである。職のない者は、自分自身を傷つけ、また世の中に害を与える。

【補説】
ニュースでよく耳にする「住所不定無職……」の後に続く言葉を思い浮かべれば、職や労働の必要性は言わずもがなである。

「小人閑居して不善を為す」(『礼記』大学)、といわれるように、暇を持て余した者は自分にも社会にも害をもたらす。
どんな職業でも構わない。とにかく仕事に精を出している限り、ほとんどの人間は妙なことはしない。

昨今は長時間労働など仕事の弊害ばかりに目がいきがちだが、労働における精神衛生上の効能にも目を向けるべきではないか。

職業を通じて人間が形成されるという論は雪嶺も、その私淑者の長谷川如是閑も度々取り上げている。

無論、労働に従事できない人は働く必要はないが、五体満足の人間は働けることに感謝して、汗水たらして勤労すべきである。
ただ、今の世の中では、このような当たり前のことを口に出すことさえ憚られるが……。

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