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#092 [読書レビュー]流浪の月(凪良ゆう)
2020年の本屋大賞作品「流浪の月」。正月からちびちびと読んでいて、やっと読了しました。感想を交えて記録しておきたいと思います。
事実と真実は違う
この小説の中で一貫として描かれていたテーマ。幼女誘拐犯と被害者の関係という事実、そこには善と悪が存在するはずが、お互いが互いの隣にいることが二人にとっての居場所であるという真実。
センセーショナルに世に知らしめられた「更紗ちゃん誘拐事件」は真実は誰も知る由もないまま事実だけが知れ渡ってしまい、主人公の二人を永遠に苦しめてしまう。
週刊誌のスクープなんかは事実を並べ立てて真実というストーリーを作り上げている、と、幻冬舎の箕輪さんが言ってたのを思い出します。事実は事実として正しいんだけれども、真実とは遥かに異なるなストーリーが世に知れ渡ってしまうんだなと、最近の文〇砲を見てて、思います。
みんな自分のことを「普通」と思っている
一人称が家内更紗と佐伯文で交互に語られるこの物語。どちらを取ってもいたって普通の人間。そして登場人物全てが普通の人間だと思いました。でも、更紗にとって亮くんのDV気質は極めて異常だし、文にとって、母親の育児書マニュアルな育て方も異常に映ります。亮くんにしてみたら、更紗の行動は異常に映るはず。
そりゃそうですよね。私を含め、みんな自分のことは普通だと思うことは普通です。他人のことは異常に映ることも普通です。だから人間同士の争いは絶えない。
ストックホルム症候群
ストックホルム症候群とは、犯罪や虐待の被害者が加害者に対して強い共感、親近感、さらには依存心を抱くようになる心理的現象のことを指します。更紗は亮くんからストックホルム症候群のレッテルを貼られますが、更紗自身は誘拐人質という極限状態であったわけでなく、いたって自然に文との生活を謳歌していて、決してシンドロームを発症していたわけではないと思います。ここにも事実と真実のギャップがありました。
そういえば英ロックバンドMuseが「Stockholm syndrome」という曲を歌ってました。
Museがヘッドライナーをつとめた2013年のサマソニ。マリンステージをライブで観ました。超絶かっこよかったのを思い出しました。
まとめ
最後話がそれましたが、本屋大賞に選ばれるに値する、素晴らしい作品でした。魂が揺さぶられて、読み進めるのが息苦しくなるような場面が何度かありました。文芸小説でそういった体験を味わえる作品はいままでそれほどなかったので、この本に出合えてよかったです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。