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旅狂いのわたしと、飛行機に乗ったことのない彼と

「趣味は」と聞かれたら、「旅行です」と一瞬で答えられるくらいにはいろんな場所を訪れてきました。ひとりでも、友達とも、家族とも。ひとりで飛行機に乗る時にも、入国審査も、少しの緊張を隠して平然と振る舞えるほどには、旅慣れたと言えるかもしれません。バックパックひとつでヨーロッパから帰り、入国審査の電子ゲートをいつものように通過、するすると税関まで辿り着いてバーコードで通り抜けること今年もすでに3回め。毎月どこかを訪れては、noteにもしたためてきました。だから友人は驚きます。私が結婚まで考えている現在のパートナーは、私と付き合うまで飛行機にも乗ったことがなかったということに。

私は24歳のその時まで、人と付き合ったことがあったことがありませんでした。恋愛に興味がなかったのではなく(むしろそれは真逆で、興味がありすぎてずっと彼氏を欲しがっていたタイプ。あなたはいっつも彼氏欲しいって言ってるよね〜。そんなに男がいいかね、と幼なじみに呆れられるくらい)、ただとことん自分に自信がなかったのです。遊んでいるのか遊ばれているのかわからないじゃれあいや、後からは写真を見返すことのできない温泉旅行などはできても、正面から傷つくことを避けたかったから。わがままひとつ言えず、自分の外見にも内面にもコンプレックスを抱えた私は、恋人との旅行に憧れだけを膨らませていました。

だって、学生時代にしたたくさんの旅行は楽しかったけれど、SNSの時代、友人たちがインスタグラムに時々載せるはにかんだ写真や、その特別感は得たことがありませんでした。友人との旅行より、彼氏彼女との方がいいと比べているわけじゃありません。ただ、純粋だったわたしは、自分もそれをやってみたかったのです。京都で一緒に浴衣を着て食べ歩きするとか、沖縄の綺麗な海で泳ぐとか、夜景の綺麗なレストランで誕生日を祝われるとか。恥を存分に晒せば、私はめっちゃミーハーだったと思います。恋に恋する筆頭でした。そして、その思いがめちゃくちゃに空回るタイプでした。

そんな熱意も虚しく、結局学生時代に彼氏と旅行する夢は叶いませんでした。今思うと、多分に力んでいたし、そもそも男性と仲良くなったり自然体のまま話したり、そんなことができなかった学生時代に、そりゃあ恋人ができないだろうと冷静に振り返れるんですけどね。留学して自然体でいる自由さを知って、それなりに遊んでみることで空回りもしなくなってきたころ、遊ぶことに飽きました。将来のために、ちゃんと彼氏というものを作って長期的な関係を築く経験が必要だと思い至ったのでした。そう言えば一度、留学中に恋仲だった人とスキーに行けるという話が持ち上がって随分と浮かれたのですが、その計画はいつのまにかあっさり流れていました。いつも簡単に散りゆく、わたしの憧れ。

けれどもそんな時、わたしはまだ一緒に旅行ができるような、そんな彼を想像していました。だってわたしの周りには、毎月のように彼氏のドライブでどこかに行く子、彼と一緒に世界一周をする子がいて、旅行好きなわたしも当然そういう日々を送ると思っていたのです。男友達ですら、旅行の段取りを完璧に整えてくれたり、数カ国への留学経験があったり、一緒にトンガやらサモアやらサバイバルな旅をしてくれる人たちだったから、当然と言えば当然かもしれません。運転できない男性はないかな〜と言っていたわたしに言ってあげたい。あなたの彼、運転もしませんよって。

さあ、そんなこんなで社会人になって、世間知らずでぎこちなかった私もそれなりに夢から覚めていました。そんなときにマッチングアプリで出会ったのが今の彼です。一緒にお出かけしたい!みたいな趣味の項目はお互いに選んでいて、海やディズニーには行きたいって気持ちがあるんだなあとなんとなくお互いにわかった上で初めましてをし、数回のデートの後で付き合うことになりました。話していて気負わないな、わたしに一生懸命になってくれるなあというのが印象で、それは3年以上一緒にいる今でも、変わっていません。ありがたいね。でも、当時のわたしは知らなかったことがあります。それは、彼はほとんど旅行に興味がないということです。そして彼も知らなかったでしょう。わたしが1年でおおよそ100万くらい旅行に費やす女だったということを。

彼は付き合ってから1年ほどは、取り憑かれたように旅行の予約を入れる私を、いつもぽかんとした顔で見ていました。アプリで出会った、インドアな彼氏。コロナ禍からようやく社会が開放感を取り戻してきた時で、わたしは抑圧された数年の憧れと鬱屈を振り払うように、国内、アジア、ヨーロッパと旅行の範囲を広げていきました。わたしは一人でぐんぐん飛び立ってしまうので、それは彼にとっては少し寂しいことでもあるらしく(そりゃそうか)、でもわたしはわたしで、彼が興味のないことにうんじゅう万もお金をかけさせるわけにはいかないよなあという遠慮があって、それでしばらくは一人旅を続けるということにしたのでした。今でも彼は寂しがって、一人でお酒を飲む量が増えちゃうらしいんだけれど、わたしは子供を産むまではワシの自由や!と思っているところがあるので、しばらくはこの生活が続くのでしょう。

ただ、いつも一人で旅行をしているわけではありません。友人や親には、あらあ、彼も一緒に行けばいいのに〜と言われるけれど、年に3回くらいは旅行してるんですよ、私たち。そうなんです。彼も、わたしがクリスマスプレゼントよりも旅行がいい!誕生日のお祝いは、高級レストランじゃなくて旅行がいい!というこだわりようなので、いつもついてきてくれます。今年は、冬に山口と福岡へ。夏に東京でちょっとおしゃれなホテル滞在、秋には大阪と京都にいきました。飛行機に乗ったことのなかった彼。パスポートを持っていなかった彼。もちろん海外の地を踏んだことのなかった彼。そんな彼といろんな景色を見に行くのは、私にとっては彼の中の旅の可能性をどれくらい広げられるかという責任の芽生えることでもありましたが、なによりも楽しかったです。

今では、チケットやホテルサイトを真剣に見つめて唸っていると、「ま〜〜た旅狂いが何か考えてるでしょう?」と面白がられます。「そう、半年先の長期休暇には、トルコもいいなあって思ってるんだよね。」そんなふうに返すと、ふうんとちょっと拗ねたようになる彼は、やっぱり可愛い人です。今のところ、お互いに驚いたり、はじめは興味がなくても付き合ってみたりで、旅行に行ったり野球を見たり写真展に行ったりしながら、ちょっとずつ一緒に楽しめる範囲を広げられています。

趣味は、ぴったり合わなくても大丈夫だよ、お互いに歩み寄る姿勢があれば。そんなふうにこれからも胸を張れるように、彼との関係を楽しんで続けて行きたいです。

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mayu
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