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【インタビュー】沖縄の離島の子どもを見守る「ななめの関係」。地域の教育を知ったわたしの次の挑戦
インタビュー企画「気になるあのひとに会いにいく」の第6弾。このシリーズは、読者の方が「会いたい」「応援してみたい」と思う人に出会うきっかけになれたら嬉しいという想いから始めた企画です。今回は、沖縄で地域おこし協力隊として子どもたちと関わった経験のある、佐藤七海(さとうななみ)さんにお話をうかがいます。
子ども時代をパキスタンなどの海外で過ごし、教育に関心を寄せる佐藤七海さん(以下、佐藤さん)。昨年度までの2年間、沖縄の離島の公営塾で、地域おこし協力隊として活動していました。新卒で就職した東京の会社を辞めて離島に行った佐藤さんの、教育への想いに迫ります。
地域と近い距離だからこそ、一人一人に合わせた教育ができる
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ーー沖縄では公営塾に携わられていたそうですが、どんな塾なんでしょうか
民間ではなく、自治体が運営する塾です。営利に捉われずに、その地域・学校に合わせて学習を提供できることが特徴だと考えています。地域によってはそもそも、町に民間の塾がなく、通うのが大変なところもあるんです。こういう場所があることで、安心して地元に進学できるきっかけにもなると思っています。
ーー民間の塾とは成り立ちからして違うんですね。どうして興味を持たれたのですか
大学のゼミの視察で行ったのがきっかけでした。所属していた教育学部のゼミでは、子ども食堂や博物館などの現地視察に力を入れていて、その中でたまたまご縁があって公営塾を訪れました。
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その公営塾では、一人ひとりに合わせた個別最適な学習が行われていると感じました。学校の勉強だけではなく、さまざまなワークショップを行なったり、地域の大人の話を聞いたり。机の上の学習だけではなく、いろんな面での学びを提供していました。先生も子どもと歳が近い人が多いので、子どもと先生の間に「ななめの関係」を作ることができるんです。
ーー「ななめの関係」とはなんでしょうか
明確な定義があるわけではないんですが、親や先生のように直接教える関係ではなく、地域特有の人間関係の近さからできた子どもたちと大人の関係だととらえています。例えば、ある子がお祭りやバイトなどのプライベートで頑張っていたことも共有される環境なんですよね。公営塾の先生は一地域の大人として、相手の言葉や考えを引き出しながら、必要なものを教えていく役割を担えます。
もちろん、人間関係が濃くて肩身が狭いという人もいます。けれども、学校だけでない子どもの様子を多面的に知れる、いいとこどりの環境でした。学校では不真面目と言われる子でも、人や学校との相性の問題だったりもするので、その子のいいところを引き出すことがミッションでした。
きっかけはパキスタン。人は学校だけに育てられるんじゃない
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ーー佐藤さんが教育に興味を持った経緯を教えてください
最初に意識したのは、中学校3年生のころだと思います。当時は親の仕事の都合でパキスタンに住んでいましたが、国際情勢が不安定な時期でした。
そこでNPOや国連の方から聞いた話が印象的で、国際協力の手段として教育を面白いと思いました。ちょっとベタですが、識字教育が女性の選択肢を広げたという話は素敵だったし、「ただものを与えるのではなく、やり方を教える」というのも印象的でした。
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高校時代には、なんとなく学校教育よりも生涯教育を学びたいと学部を選びました。海外で個性の強い先生に出会った経験からも、学校という箱の中だけじゃなく、さまざまな経験をしている人に魅力を感じたからです。大学で学ぶうちに、教育により興味を持つことになります。
ーー子どもへの教育だけでなく、大人も含めた人材開発の要素が強いように感じます
そうですね、若い子や学校という枠にとらわれない、セルフリーダーシップと言われるものですかね。自分で自分をより良い方向に導けるみたいな考え方に興味があります。
ーー学校外で子供に影響を与える環境や家族についても、経験を伺ってもいいですか
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幼少期にどんな経験があったのか、どんな家庭環境だったのかは当然ながら子どもに影響を与えます。
人の背景について学ぶきっかけは、パキスタン時代の学校でした。少人数でいつも同じメンバーで一緒に過ごしていたので、相手の家庭環境も筒抜けです。その人の行動や価値観のルーツが、子どもながらにすごく見えたんです。
地域にいると、同質性の高いところで育った子どもたちと出会います。自分では選択肢が出せない、選択ができない子も多いんです。沖縄特有の課題として貧困もあって、それを子どもたちから切り離して話すことはできないですよね。いろんな課題の中で、彼らにどう成功体験を積ませることができるかを考えています。
伝統な価値観への挑戦のため、行政の文脈を理解する人を目指す
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ーー今年、沖縄からお帰りになったと聞きました。今はどんな活動をされているのですか
民間として教育関係の会社で、総務や労務経理をしています。背景は、地域おこし協力隊として働き、伝統的な地方行政の体質で仕事を進めるためには自分は力不足だと感じたことです。
東京で過ごしている時は感じなかったほど、若く経験がないことでもどかしい経験をして、それが悔しかったんです。相手の土俵に立てる人間になるように、まずは総務や経理などの業務に挑戦することにしました。
ーー現場から離れて、新たな視点で挑戦されるのですね
子どもたちが過ごしやすくなるには、政策や体制も変えていかないと難しいと痛感したからです。行政では何十年先の将来を考えたり、町に住んでいる住民全体のことを考える必要があったり、顧客のことだけを考える民間企業とは文脈が違うんです。
その違いを理解したうえで、「どう実行していくか」を考えることが大切だと思っています。そのために、前提条件となる経理や総務などの裏方の視点を持てるようになることを目指しています。
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ーー伝統的な価値観への挑戦は、かなり大変なのではないかと想像します。そんな中で、今の活動のモチベーションはなんですか
やっぱりひとりの人、目の前の人を幸せにしたいって気持ちです。例えば私は、塾の担当の生徒にも人一倍思い入れの強いタイプで。実際に地域に住んだことによって、感じた課題に対して、今では子どもの顔が浮かぶようになってしまったんですね。
その子たちの選択肢が生まれた環境に左右されるのもとても悔しくて。自分は私立大学に行きましたが、それとはハードルが全然違う。いい大学に行くことがゴールじゃないですが、選択肢自体が狭められるのはやはりおかしいと思うんです。
地域と教育、描く理想は「子どもが主語になる社会」
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ーー佐藤さんが考える、こうだったら良いなと思う社会ってどんなものですか
子どもを主語にできるってすごく良いなと、沖縄に行ってから強く思っています。それは私が教育に興味があるからというより、次世代や未来に対してみんながどれだけみんなが明るいものを見られるかが、理想的な社会のあり方に関わると思うから。
沖縄って子どもが多いんですよね。東京だと子連れで電車に乗ると肩身の狭さを感じるなんて話も聞きます。満員電車に揺られる忙しい人が多いんでしょうね。一方で沖縄はもっと寛容だと感じました。赤ちゃんが泣いていても自然に受け入れている空気があって、未来ある人たちへの視線や興味は素敵なことだと思いました。
ーー教育とも地域とも密接に関わる中で、現在はどちらへの関心が強いのでしょうか
とっても難しいです。やっぱり教育という意識が強いのかなと思いますが、教育と地域は「竹馬の関係」なんです。
地域で実際に活動してみると、地域課題が見えすぎてしまうのですが、どっちかだけがうまくいってもバランスがとれないと思っていて。でもその中で自分は、目の前の子どもたちや先生が、どうやったら少しでもいきいきできるかってことに興味があるんだと気づきました。
ーーいきいきと日々を過ごすために、子どもたちにはどんな経験をしていってほしいですか
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人がいきいきしている状態って、自分の言葉で自分の感情や考えを表現できるってことじゃないかと思います。ボキャブラリーを増やすことは、その人の頭の中や見える世界を広げていくことだとも思っています。
同質性が高い環境は、みんなが共有している価値観が似ているので、阿吽の呼吸で多くが伝わるということ。でも伝わりすぎると、自分の感情や考えを的確に理解したり、表現したりできなくなってしまうことがあるんです。いろんな人と話す、本を読む、経験するなど、多様に世界とつながる機会を作っていくことが大事だと思っています。
あとがき
今回は私の教育分野への興味から、教育のフィールドで挑戦されるななみちゃんにお話を伺いました。自分の好奇心からいきなり「公営塾」や「地域の教育」について突っ込んだ質問をしたにも関わらず、丁寧にお話を聞かせてくださり、そして表現方法まで考えていただいたことにまずは大変感謝です。
ななみちゃんが経験した地域と子どもの密接な関わりや、伝統的な行政分野の価値観への挑戦など、目の前で起きていることを正面から捉えて共感し、時に立ち上がる姿に勇気をもらいました。すぐに正解が出ない教育の課題と向き合うななみちゃんの思慮深い言葉が、非常に印象的なインタビューでした。
(執筆)mayu
(写真提供)佐藤七海
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