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#3 「塩釜口で会いましょう。」なんて

きなバンドがいた。解散してしまったけど今でも好き。
思い出が詰まっている。友だちと中学生で初めてライブハウスへ行った日。物販で憧れのボーカルと話せたこと。出順を知らずにそのバンドをトリで見ることになったこと(そのバンドのツアーだったのだから、今となっては当たり前のことである)。終わったあとにセトリの紙をステージ上からもらったこと。帰るのが日付をまたぐ頃になって叱られたこと。それでも後悔はしなかったこと。ベースを始めたこと。音楽が好きだとわかったこと。
そのバンドの曲に塩釜口、という曲がある。私はその曲がお気に入り。家族旅行はどこが良いか聞いて娘に「塩釜口、」と答えられたあとの両親の顔が不思議そうであったのを納得できる距離に、今は住んでいる。その曲の舞台が見たくてたまらなくて、でも自分一人で県外は行けないと思っていた中学生の私のあこがれの地。ふと思い立って地下鉄に乗る。
2番出口すぐの行ってみたいと思っていたお店はお休みで、第二候補の近くの喫茶店は閉業していたと知る。塩竈神社も開門時間は過ぎていて行き当たりばったりだ。本当に、「塩釜口で会いましょう。」なんて言えるわけないや。どこにも君と待ち合わせる場所がない。でも後悔はしていなかった。
私は、音楽に熱を上げていた中高生の頃の私を抱きしめに行きたかったのだ。「塩釜口で会いましょう。」と言えたところでそしてもしその願いが叶ったとして、あなたがいたから今の私がいるよ、なんてことも言えるわけないけど、あなたのままでいい、好きなものも好きな音楽も不器用さも抱えたままでいいよ、と本当は言いたかった。
本当は私が私自身にそう言えるようになりたかった。好きなことを変えなくてもいい、変わらないといけないと思うことは苦しい。変わろうと走る私よりも、息切れをして膝に手をついている私を人として認めてほしかった。そんな思いがぽろぽろ溢れだして塩釜口のまちを歩いた。
今はそう思えなくても、
あなたも、あなたのままでいいよ。

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“「塩釜口で会いましょう。」なんて言えるわけないや”は大好きな曲「塩釜口」の歌詞です。
🎠𓈒𓂂エッセイ中のバンドのMV
T/ssue - manyメリーゴーランド

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