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【創作小説】林檎の味

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「カオルとカオリ」という連作形式の小説の第一部にあたる「林檎の味」が完結しましたので、マガジンにまとめました。札幌郊外を舞台にした十代の少年少女の切ない初恋物語です。 あらすじ:…
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2023年10月の記事一覧

【小説】林檎の味(四)

 その頃のカオリについての思い出は、その名のとおり、多く匂いに結びついていた。  カオリ…

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【小説】林檎の味(五)

 ある朝、カオルが目を覚ますと、体が全く動かないことに気がついた。突然の異変に軽いパニッ…

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【小説】林檎の味(六)

 カオルは朝からそわそわと、窓の外を眺めていた。入院してもう一カ月になる。病状が少し落ち…

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【小説】林檎の味(七)

 久しぶりの再会だったが、二人して石にでも変えられたかのようにひどく口が重かった。カオル…

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【小説】林檎の味(八)

 見舞いはちょうど良いタイミングだったのかもしれない。カオリの訪問から一週間もすると、す…

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【小説】林檎の味(九)

 早く退院してカオリに会いたい――カオルは来る日も来る日も、そんなことを考えながら、長い…

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【小説】林檎の味(十)

 「ただいま……」  久しぶりの我が家、カオルは小さな声で居間に入ると、真っ先にピアノに目を向けた。子どもの頃から弾きなれたそのパートナーは厚いビロードのカバーで覆われている。リハビリの甲斐むなしく、右足に麻痺が残り、ピアノはもう続けられない。胸が疼いた。  幸いカオルの家にはいくらか余分な貯えがあった。海外の有名コンクールを本気で目指すならと、高給とはいえない父の大学教師の給料からやりくりし、遊学資金として積み立てていたのだ。おおかた治療にかかる費用に化けてしまうことだろう

【小説】林檎の味(十一)

 真新しい学生服に身を包んだカオルが横断歩道を渡る。ゴールデンウィークも終わり、みんなか…

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【小説】林檎の味(十二)

 カオルはシンジに教えてもらったカオリのクラスをそっとのぞき込む。もう始業時間だが、いく…

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【小説】林檎の味(十三)

 六月に入ってからというもの、本当によく雨が降る。いわゆる蝦夷梅雨というやつだが、今年は…

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【小説】林檎の味(十四)

 生徒たちでごった返す昼休みの購買部。行列の前の方でパンを買っているカオリを見かけた。今…

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【小説】林檎の味(十五)

 チェロケースを背負ったカオルが廊下を歩いて来る。このままではさすがに居場所がなくなって…

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【小説】林檎の味(十六)

 何となく二年生に進級していた。何となくとしか言いようのない、砂を噛むような毎日だった。…

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【小説】林檎の味(十七)

 放課後、カオルはチェロケースを抱え、久しぶりに音楽室へと向かった。このままでは自分まで幽霊になってしまいそうだった。廊下の窓から外を見上げると、カオリが屋上にいた。相変わらず空を見ている。  カオルは音楽室に入ると、いつものように隅の方に座り、ケースからチェロを取り出す。新歓シーズンだからだろう、みんなどこか浮ついた雰囲気で、練習に身が入らず、噂話に興じている。  「今日は静かだな」。「転校するんだってよ」。「誰が?」。「パンク女。うちのクラスなんだけどさ」。  カオルはチ