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【小説】林檎の味(十四)
生徒たちでごった返す昼休みの購買部。行列の前の方でパンを買っているカオリを見かけた。今日こそ話しかけよう、自然な感じで、とカオルが思う間もなく、カオリは行ってしまった。
カオルは教室に戻ると弁当箱を広げた。級友たちがめいめい輪になって、わいわい昼食をとる中、カオルは窓辺の席、一人ぽつんと箸を動かしている。なんとなくそれがクラスでのポジションになってしまっていた。
窓の外をぼんやり見上げる。屋上のフェンスに体をもたせているカオリの遠景が目に入る。カオリの定位置だった。一人ぽつんとパンを食べている。ようやく初夏の北海道らしいさわやかな天気が戻り、今日は特に空がきれいだ。屋上のあの辺では、さぞや心地よい風が吹いていることだろう。
カオルは手すりにしがみつき、足をひきずりながら階段を上る。息が上がってしんどい。二階、三階、四階――。
カオルが屋上のドアをそっと開けると、カオリはけだるそうにフェンスに寄りかかっていた。深い憂いを秘めた眼差しで、流れる雲を見つめている。今日のすばらしく晴れた空の青さを映しているであろうその瞳は、それにもかかわらず深い陰を宿し、風に吹かれるままのその姿には、厳として侵しがたい気高さがあった。カオルが決して触れることの出来ない、蒼穹よりも深い孤独と憂愁。カオルは声をかけることすら出来ず、肩を落としてそのまま立ち去った。
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![橋本 健史](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/116276104/profile_89d65e55e23f10bca1f53355e97f3f02.jpg?width=600&crop=1:1,smart)