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【イベント報告】第43回土岐善麿記念公開講座
土岐善麿は、1965年4月、武蔵野女子大学文学部日本文学科が開設された当時の主任教授として就任。94歳になる直前まで武蔵野キャンパスの教壇に立ち続けました。武蔵野大学文学部では毎年、土岐先生のお仕事を振り返り、語り合う公開講座を実施しています(近年は新作能にスポットライトを当てて実施しています)。今年は新作能「顕如」がテーマ。当日のレポートを金子健先生にご執筆いただきました。
皆様、こんにちは。2月のキャンパスは中高ふくめ入試の季節で、背筋が伸びるような、緊張感のある雰囲気の日も多かったのですが、その合間を縫って2月13日(木)には土岐善麿記念公開講座(@武蔵野キャンパス6号館雪頂講堂)が賑々しく開催されました。本日は、その模様を報告します。
講座のタイトルは「土岐善麿 新作能の世界」。日文の教員から構成される武蔵野大学日本文学研究所による主催、武蔵野大学能楽資料センターの共催です。なんと80歳で、本学(当時は武蔵野女子大学)文学部日本文学科の初代主任教授になられた土岐善麿先生(1885~1980)は、国文学者、国語学者、歌人であり、長く新聞社にも勤められた経験もあるほか、漢詩や書にも造詣が深い、数多くの校歌の作詞を残された等、その仕事はこの上もなく多岐にわたっています。先生が亡くなられた3年後の1983年に、その功績を振り返る公開講座が始まり、今回で第43回という歴史を重ねてきました。
土岐先生の幅広いお仕事では、数々の新作能を書き下ろされたことも特筆されます。御自身も師事されたシテ方喜多流十五世宗家、喜多実と提携して計16曲を残されました。この公開講座は、2015年度の文学部創立50周年を機に、毎年新作能を1つずつテーマに据え、研究と実演を交えて作品を検証することで、土岐先生のお仕事を見つめなおす機会となっています。
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今年は、新作能〈顕如〉でした。土岐先生と御親交がおありであった歌人の馬場あき子先生、狂言方大蔵流の山本東次郎先生、そしてシテ方喜多流からは日文の客員教授である佐々木多門先生、講座にたびたび出演いただいている友枝真也先生のお二方にも御一緒いただきました。毎年の講座のなかでも、今年は大学創立100周年という記念イヤーであり、それにふさわしい豪華なお顔触れ・内容となりました。
主催者として、日本文学研究所長、土屋忍先生の御挨拶(日文学科長の楊昆鵬先生による代読)のあと、まず岩城賢太郎先生による解説から講座がスタート。1942年初演ですが、近年は半世紀近く上演がない〈顕如〉について、戦乱の渦中にあった16世紀の本願寺の歴史も交えてひも解いてくださいました。
その後は、能楽師の方々による実演です。山本東次郎先生は、一曲の冒頭にあたる狂言口開(くちあけ)の部分と、前場・後場をつなぐ間語り(あいがたり)をお勤めくださいました。そしてシテ方のお二人は、佐々木多門先生が、友枝真也先生の謡にのせて〈顕如〉後シテを仕舞(紋付袴姿で、一曲の眼目部分を短く舞う形式です)で披露してくださいました。
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休憩をはさみ、後半は馬場あき子先生が御登壇され、本学講師・寺井龍哉先生を聞き手とするお話「土岐善麿をめぐって」。馬場先生手書きの配布資料も貴重で、土岐先生が眼前に立ち上ってくるようなお話は、お時間がいくらあっても足りないほど。
講座の締めくくりは、お招きした講師の皆様全員と、司会・進行の能楽資料センター長の三浦裕子先生による座談会「土岐善麿の新作能創作活動」。山本東次郎先生が、お父様・先代東次郎先生が、間狂言部分の作詞をお引き受けになっていたことなど、新作能を通じての土岐先生との深い縁をお話しくださるなど、貴重な時間でした。
皆様も楽しみにしてくださったのか、あいにくの強風の日であったにもかかわらず、194名もの皆様に来場いただき、場内は華やかな雰囲気で満たされていました。3時間にもわたる講座ながら、講師の先生方のお話はまだまだ伺い足りないので、ぜひ機会を改めて本学の講座へまたお招きできたらと思います。
今年2025年は、文学部創立60周年です。記念にふさわしい講座や催しを企画予定ですので、ぜひ御期待のうえ、お出ましいただきたいと願っています。
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