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ボーはおそれている|概念的考察

「ボーはおそれている」

サイコスリラー界に衝撃を走らせた「ミッドサマー」で一躍有名になったアリ・アスター監督の最新作です。

アマプラにあったので観てみました。

  • どこまでが現実でどこからが妄想なのか。

  • どうしてこれを作ろうと思ったのか。

  • どんな気持ちで作っていたのか。

混乱しっぱなしの3時間(なっが!)でした🌪️

いろんな方の考察を読ませていただいて、その解釈があったのか!と初めて理解できたところも多いです。

言葉にするほど確信が持てないところもあるので細かい考察は避けて、精神分析の視点を取り入れた概念的な考察をしてみようと思います。

歪んだ主観が作るボーの現実

観終わった余韻の中でわたしの頭に降りてきたのは、

人はみんなそれぞれの主観で生きていて
その主観の世界にはどうしたって歪みはある。
⬇︎
そんな歪んだ主観同士が影響し合って
ひとつの客観的な事実が作られる。
⬇︎
そしてその客観的な事実さえも結局はまた
個々の主観で受け取られる。
⬇︎
これがぐちゃぐちゃになっているのが「世界」

ということです。

主人公ボーは知的にどこか幼く、歪んだ認知に基づいた世界を見ているという印象を受けました。それでいてボーには鋭い観察眼があったり、人の感情に敏感であったりと、一般的な水準を超越した特性も備わっているのかなと思いました。これもまたわたしの主観ですが🧠

それにはボーのもともとの素因だけでなく、支配的な母親モナとの関係性や、育ってきた環境が影響しているように感じました。彼の世界観は、抑圧された無意識が意識に侵入し、現実そのものを歪ませている状態に近いのかもしれません。

ボーは、飛行機で行き来するほど母親から遠く離れた街でひとり暮らしをしています。これは物語の後半で語られていた通りで、物理的な距離を取るという彼なりの母親からの自立への試みと見て取れます。

しかし、母親の存在感はボーの心に根深く残り続け、経済的にも依存せざるを得ず、完全な自立を果たすことはできません。この状況は、発達心理学者マーラーが提唱した分離-個体化理論を想起させるものだと思いました。ボーと母親の依存関係は、分離-個体化理論でいう“再接近期の停滞の状態”にあると推測できます。親の影響力から完全に抜け出すことの困難さが、ボーに歪んだ世界を見せ続けているのでしょう。

愛と支配の境界線

作品の前半(大半?笑)はボーの視点から狂った世界が描かれているのですが、物語が進むにつれ、母親モナの狂気性に焦点が移っていきます。「どうしてこうなった」という責任の所在をあやふやにしながらのテーマの転換が奇妙で、映画全体をより気持ち悪いものにしていると感じました。(褒めてる)

親子の関係は、多くの場合、深い愛情と同時に支配的な力動が入り混じるものです。この作品では、モナが「愛」を名目にしてボーを支配し、彼を精神的に縛り付けている様子が描かれていました。

ボーは母親の期待に応えようと努力し続けますが、完全には応えられない自分に対して罪悪感や不安を抱きます。さらに、無意識下でその支配から逃れようとしてきたため、最終的にはパニックに陥ってしまいます。母親がボーに与え続けた「愛のようなもの」は、実際には彼の自由を奪い、不健全で依存的な関係を築き上げていたのかもしれません。

タイトルの「ボーはおそれている」という表現は核心を突いていると思いました。この作品の中で唯一、誰の主観においても明白な事実があるとすれば、それは「ボーが終始おそれていること」でしょう。ボーがおそれているのは、母親そのものであると同時に、母親の影響によって作り出された自分自身という。

ボーは狂っているのでも、壊れているのでもなく、おそれている。このシンプルなテーマが、映画全体に一貫した焦燥感や重みをもたらしていると感じました。

アリ・アスター監督のエネルギー

個人的に、アリ・アスター監督の作品には、「観たい」というよりも「観なきゃいけない」という感覚にさせられます。どの作品も目を背けてはいけないものを突きつけられるような生々しさがあるからでしょうか。

「ミッドサマー」はそういう気持ちでとりあえず再生ボタンを押したのですが、かなりの衝撃でした🫨

まだ「ヘレディタリー 継承」は観ていませんが、いつか観なきゃという妙な義務感があります。わたしにとっては、夏休みの自由研究のような避けられない大きな課題に近い感覚です。

アリ・アスター監督の、観る者の普遍的な恐怖や個人的な無意識をこれでもか、というくらい鮮烈に掘り起こして掻き回して作品にまとめるエネルギーは本当にすごいとしか言いようがないですね🎥


次回作「Eddington」はパンデミックが背景にある物語だそう。

世相を反映するまでのスピード感にすでに慄いてます…。

俳優陣も豪華で気になります!

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