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行動科学で考える人材採用~偶然を期待する採用からの脱却―「名人芸」から「科学的」へVol.5(3/4)

6.「考え方」より、まずは「行動」にフォーカスする

ところで、私たちMSCでは、採用選抜においても、また企業幹部の適性診断においても行動事実・行動事例に基づいてアセスメント(評価)を行っています。私たちのアプローチは、面接やアセスメントセンターから収集した行動情報をつかって、将来の応募者のパフォーマンスを見極める、というきわめて明快なものです。


その一方には、応募者のその行動にどのような考え、感情、意見・意図があったかを推測し、個人が本質的にもつ特性にまでさかのぼるという、心理学を活用したアセスメントの手法も存在します。この考え方では、「意図や動機、性格・性向や傾向が特定されない行動はコンピテンシーと見なさない」という考え方がベースとなっています。「こういう刺激に対してこういう反応を示す(こんな状況に置かれたら、こんな行動をする)ときに、なぜ、どういう考えで、そういう行動をとったのか」というところまで踏みこんでアセスメントをする方法、といったらいいでしょう。

同じようにコンピテンシー(成果につながる行動)という概念をつかっても、その行動のとらえ方に関して、いろいろな考え方があるわけです。

下記の図をご覧ください。ここに描かれた半円形は、人の行動のメカニズムを概念化したものです。「気質」というのは、生まれたときに親からもらったものなので、人の性格の基礎として生涯変わらないものです。この気質をベースに形成されるのが「幼児性格」。俗に「性格」といわれるのがこれで、幼児期にあたる3歳から5歳くらいまでの時期に形成されるといわれています。

その上層にある「社会的性格」とは、所属している社会や環境、その中での人間関係などから形成される、一般にいう「価値観・考え方」です。そして、私たちが観察(目でみることが)できる行動―図では半円のいちばん外側にある黒い部分がこれにあたります。

コンピテンシーに関する私たちDDI社・MSCの考え方は、この黒い部分、つまり「適応行動」にフォーカスしたものです。

図に沿って説明すれば、ある刺激に対して(業務でいえば、ある課題に直面したとき、ある目標を背負ったとき)どのような適応行動をとるか、そしてその行動は成果に結びつくものかどうか。そうした行動に焦点を当ててその人の能力や適正を見ていきましょう、というのが私たちの「コンピテンシー面接」(その中での「行動質問」)であるわけです。

対して、先の心理学的アプローチは、行動の源となる「考え方」、「性格」(「幼児性格」)や「気質」にまでさかのぼり、発揮された行動の出どころまでさぐるアプローチをとります。そのため、その人がとった行動について、必ずその行動をとった理由や考え方まで質問をし、そこから、その本人の本質的な特性・性格傾向・自己概念を含めたアセスメントをするわけです。この場合面接官は、応募者のすべての行動について意図や目的を判断することが必要となります。

一概にどちらが正しいとかの、どちらがよりコンピテンシーの見極めに適しているかということはできません。ただ、はっきりいえることは、人間の性格の深層にまで降りていく、心理的アプローチを、心理学の専門知識のない人が行うはきわめて危険である、ということです。

そのことについて、次項で少し触れておきたいと思います。

7.「にわか心理学者」への戒め

日本人はどうも心理学的アプローチが大好きな国民のようです。書店に行けば心理学のコーナーが設けられていて、専門書とともに一般の人向けに書かれた書籍がずらりと並んでいるのには驚かされます。

私が怖いと感じるのは、そうした本を読んだ(あるいは、その内容を聞きかじった)だけで、心理学がわかったつもりになってしまうことです。怖いのは、そのにわか知識で自信たっぷりに他人(たとえば自分の部下)の性格を把握したつもりになり、それを評価の材料にするような行為です。

よく耳にするこの種の方法の一つに“血液型性格診断”があります。ある人の日ごろの言動を見て、「あなたは×型でしょ」というものです。ここで扱われる血液型は、いわゆる気質の範疇(はんちゅう)となりますが、そんなに簡単に人を四つのタイプに括(くく)れるものでしょうか。

みなさんの職場にそのような人はいませんか。部下の行動の断片を捉えて、「おまえはこういう性格だろう。だからそんな失敗をしでかすんだ」と決めつけて、あたかもそれが部下指導であるかのように思っている人が。

面接官の中にもこれに類する人がいて、行動事実の一部から「ああいう発言をする学生は負けず嫌いに決まっている」などと断言するのです。応募者の情報を判断する際、突然心理学者になってしまう面接官が少なくありません。

面接の多くの時間を、応募者の考え方や、長所・短所、あるいは、自分の特徴を簡単に語らせるなど、応募者の性格や考え方を理解する糸口をみつけようとします。DDI社やMSCでは、このような人を「にわか心理学者」とよんで、その種の決めつけを厳に戒めています。

先にも述べたように、人の性格や価値観、あるいは考え方といったものが行動につながっている、という考え方はたしかにあります。けれども、それは経験と学識を積んだ専門家が判断することであって、心理学的アプローチを素人が、しかも応募者の人生を左右するような採用面接の場でつかうのはやはり怖いことだな、と思わずにはいられません。

自分のことは自分がいちばんよく知っているといわれますが、自分の性格の基層にあるものは当の本人でさえわからないことが多いのです。少なくとも面接の場で「にわか、心理学者」になることは、できれば避けていただきたい。それが私の偽らざる気持ちです。

8.「内観」しないのが「コンピテンシー面接」の特徴

ちなみに、ということで申しあげますが、面接官の中には「にわか心理学者」ならぬ「にわか人相学者」になる方もいらっしゃいます。「顔つきを見れば、どんな人物かわかるよ」「目に力がある」などと豪語される人です。

そういう方と面接の評価・選考会で同席して、人相や風貌に基づく評価を聞かされたときは苦笑するしかありません。しかし、その方は大まじめなのです。「自分の判断は間違ったためしがない」と。

これなど「名人芸」の一つなのでしょうが、「科学的方法」に切り替えていただきたいと思います。

ということはさておき、前項で紹介した心理学的アプローチのように、対象となる人(応募者)の内面に降り立つことを「内観」といいますが、私たちの勧める「コンピテンシー面接」は、そこまでの「内観」をしないということが特徴といえるでしょう。

言い換えれば、その人がどういう性格かということはいったん横に置いておいて、あくまで「その人が会社の求めるコンピテンシー=成果に結びつく行動を、いつどんなときにも繰り返しとることができるか」ということにフォーカスするのが、私たちのいう「コンピテンシー面接」のポイントなのです。

とはいえ私たちも、応募者から行動情報をたっぷりと収集したうえで、目標に取り組む思いや考え方を聞かせてもらうことはあります。しかしその場合は、多くの行動情報に裏づけされていますので、聞いている側も納得のできることが多いのです。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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