
人事施策には経営戦略との連携が必要!ー過渡期にある日本企業の人事~Vol.(1/2)
1.人事コンサルタントとしての問題意識を出発点に
人事コンサルタントとして、企業の人事担当者の方たちと一緒に、優れたリーダーの採用や能力診断と選抜、リーダーシップ開発や人事制度の運用など、「ヒト」にまつわる組織の課題に取り組んでいます。
ここ数年、企業を取り巻く外的環境の激しい変化に伴い、今まで以上に、人事が果たすべき機能は組織にとって重要であると同時に、人事担当者に求められる能力も高くなってきていると感じます。経営の課題を踏まえ、人事が「ヒトコト」ではなく、戦略を実践していく一部門になれるのか?「人事」が変わらなければ、「組織にいるヒト」は変わらない。ヒトが変わらなければ、組織は変われない。
企業の方たちと仕事をしながら、このことを痛感しています。
日ごろ感じている「WHY?」を具体的に挙げましょう。
なぜ、優秀なリーダーを輩出できないのか?なぜ、グローバルリーダーがいないのか?
なぜ、企業の新しいビジネス戦略を実践しようと考えたときに、実行できる人材候補が見つからないのか?
なぜ、人事部があるにもかかわらず、人材戦略に関することを経営企画室が推進しようとするのか?
なぜ、突然、社内ではなく社外からキャリア採用で人事担当者が入ってきて、人事施策を変えようとするのか?
思い当たることがある人事の方々も、いらっしゃるのではないでしょうか。
最近、あるセミナーに参加したときに、強い衝撃を受けました。それは、人事コンサルタントに向けられた次のような言葉でした。
「人事コンサルの会社は、3カ月前とやっていることが同じだとしたら、お客様である企業の人事部から選ばれなくなり、仕事はなくなる」
その言葉はとても刺激的であり、「同じであってはいけない」ということを深く考えさせられました。同時に、人事も変わらなくてはならないというメッセージであると捉えました。
ここ数年、人事に起きている変化はさまさまです。「人事こそ戦略の実行部門に変わらなくてはならない」という問題意識を、人事の方たちと一緒に共有したい。そのように考えたことが、この本を書きたいと思った最大の動機です。


2.環境変化のスピードに対応しきれない日本企業の現状
日本の企業が、さまざまな外的要因を受けて変革を求められている今、人事部門こそ、変わらなくてはならないと考えています。20年以上にわたり企業の人材マネジメントにかかわってきた経験から、企業の原動力となる「ヒト」の力がどれほど重要であるかを強く感じているからです。
その背景には近年、人材(タレント)が不足していることに、危機感を抱いている経営者が多くなっているということがあります。
どこの企業においても、リーダー人材・グローバル人材に関する課題の緊急度は高く、ビジネス成果を実現できるリーダーの早期育成をトッププライオリティとしている企業は少なくありません。
最近あったクライアントの事例ですが、その企業は、買収した海外の企業をどのようにマネジメントしていくかという問題に直面していました。経営層から、グローバル化というテーマが突然、人事部門に下りてきて、グローバルリーダーの早期育成をどのように進めていけばよいかを検討していました。
こういった企業の事例を耳にすることは少なくありません。ビジネスの成長可能性を国外に求める日本企業は増え続けています。しかし、問題も山積しています。
グローバル化を推進する新たな戦略を策定しても、いざ実行するとき、海外に行って現地のスタッフをマネジメントできる人材が圧倒的に足りない。あるいは、マネージャーを選抜して海外に派遣しているにもかかわらず、期待するパフォーマンスが思うように出ていない。場合によっては、優秀なローカル社員が、日本から来たマネージャーに失望し、退職してしまうといったケースまで出ています。
もちろん、加速化するグローバル化に対応すべく、企業の人事部門も、予算をかけて、グローバル人材の育成に取り組んできています。しかし、思うような結果が出ていないのです。
危機感を募らせた経営トップが「グローバル人材を早急に育成せよ」と号令を下し、ミッションを課された人事部門があわてて動き出した、という企業も少なくありません。
今の人事に求められていることは、自社のビジネス戦略を踏まえて、人材(タレント)を体系的に育成できる一貫性のある仕組みを構築し、実行することです。
しかし、人事はオペレーションの範囲で今までのやり方を見直すことにとどまり、いかに戦略的に組織の人材を活用していくかという視点が不足しがちです。
「人事の考え方を変える必要があるのではないか?」と、考えさせられる状況に画面することがよくあります。特に、日本の大手企業の人事は、管理的・保守的な考え方をする傾向が根強くあるように感じられてなりません。
グローバル人材の育成というと、英語力(語学力)をアップさせる、優秀な人材を選抜してMBA (経営学修士)を取らせる、というプログラムを人事主導で運営しているケースがよくあります。
もちろん、語学力はコミュニケーションのために必要ですし、MBAの取得もグローバルに活躍するリーダー人材を育成するうえでは無駄にはならないでしょう。
しかし、大事なことは、ビジネスの現場で実際に仕事をするために必要な能力やスキルを備え、結果が出せるリーダー(たとえば、海外ブランチで大勢のローカルスタッフに対してリーダーシップを発揮できるラインマネージャー人材、複雑な状況下であっても仕事を推進して成果を出すことができる人材)を、いつでも輩出できる状態が準備できているかということではないでしょうか。
また、グローバルといっても、必ずしも国外に赴任する人だけには限りません。国内にいても、グローバルマインドを持って仕事を進めていくことが求められている企業も少なくないからです。自社のビジネスの戦略を理解したうえでグローバル化を捉えなければ、実効的な人材育成を行うことは難しいのが現状です。
ところが、実態はというと、経営方針と組織とを絡めた人事施策がなく、今までの経験で対応している企業も少なくありません。「日本は特別であり、海外とは事情が違う」といった理由を並べ、うまくいかない場合は海外事情のせいにしてしまうことも、往々にして起こりがちです。


3.人事の施策に戦略と革新性が不足している
私は、幅広い業界業種の企業の方々をクライアントとして、管理職(ミドル層からシニアクラス)を対象としたリーダーシップ開発に取り組んでいますが、ここ2~3年は、「リーダー人材が育っていない。数も質も足りていない」という危機感を持つ企業が増え、マネージャーの能力開発のニーズが高まっています。
環境の変化、仕事の変化、部下の変化についていけない、旧いビジネス慣行から脱却できず、マネジメントスタイルが時代に合わないといった問題も、よく耳にします。
しかし、何年間にもわたり同じ基準で管理職を選考し、研修のあり方にも抜本的な見直しが行われないまま従来の方法を踏襲してきた人事のあり方は、組織が直面している課題と切り離すことはできないでしょう。
そして、現在、日本企業の多くが、ビジネス環境の変化に立ち向かっていかなければならないという段階になって、「これから正しい方向に企業を引っ張っていける強いリーダーが自社にいるのか、いないのか。いないなら早急に育成しなくてはならない」という現実に直面し、人事の課題認識も高まってきています。
しかし、人事が組織変革の一役を担うことができているかということについては、企業間での差が大きいのが現実です。
ある大手メーカーで、採用のコンサルテーションを行った事例をご紹介します。
その企業では、経営トップが「わが社の次世代の経営を担えるリーダーが本当に育っているのか?従来の人事のやり方では、タレントは育成できない」という問題意識を強く持ち、「まずは、新卒採用のやり方を一から見直す必要がある。採用から育成までを戦略的に行っていないから、次世代リーダーが育たない」と、人事にカツを入れました。そして、この問題については人事部だけに一任せず、社長直轄の経営企画室がそのプロジェクトに入ることになりました。
経営企画室と一緒に今後のビジネス戦略に紐付けながら採用戦略のプランニングを行い、それを実行に移す段階から、人事部もプロジェクトに参加しました。プロジェクトミーティングでは、経営企画室と人事部が真っ向から対立し、プロジェクトの遂行には大変な苦労をしました。
私たちコンサルタントが、このプロジェクトで最も時間を費やしたのは、保守的な人事部の納得を得ることでした。経営企画室からは、「今までの属人的な方法ではなく、より戦略的な方法で採用を変えることにより、入ってくる人材も変わってくる。それに対して人事部は、『難しい・できない』の一点張りで、新しい方法を受け入れない」と相談されました。しかし、最終的には、人事においても、新しい手法を取り入れる必要性と有用性については納得してもらうことができました。
長年、採用と育成を担ってきた人事部のやり方が、時代の変化に対応できていないために問題視されるのはやむをえないことです。本来であれば、こうした指摘をきっかけに、今までのやり方を人事部自らが否定し、新しい方向性を積極的に打ち出す必要があるということは言うまでもありません。
今までのやり方を見直して、新しいやり方を取り入れる、あるいはこれまでのやり方を根本から変えるということに、人事部は慎重になります。一般的に、人事は、今までの経緯や過去のデータを重要視する傾向があることも否めません。また、「毎日のルーチンに追われている」ことも事実です。
人事部が変革を推進できていないことは、今のビジネス環境の中、企業にとっては大きい問題であり、人事コンサルタントとしては、非常に危機感を抱いています。


4.おすすめ人材アセスメントソリューション
5.大転換する人材マネジメント 迫られる人事部の意識変革
「環境変化のスピードに対応しきれない日本企業」、「戦略的に組織の人材を活用していくという視点が不足している人事」、「管理的・保守的な考え方をする傾向が強い大手企業の人事」、「戦略と革新性が不足している人事施策」、「日本は特別、自社は特別、人事は特別」と手厳しい。
著者の指摘は厳しいが、正しいと思う。そして人事担当者の多くも「このままではいけない」という問題意識を持っている。しかし変革に踏み出す人事はまだ少ない。問題意識の段階で、日本の人事は停滞している。
なぜ停滞しているのか? これまでの人事システムは、高度成長期から続いてきた。このシステムは新しい時代の人事へと変革を迫られているが、その背景や方向が整理されておらず、人事自身に迷いがあるので、根本的な変革ができないのではないだろうか。
本マガジンを読めば、いま起こっている時代変化、その変化に対応するための方向がはっきりわかる。人事部の意識変革への起爆剤となることを期待したい。
6.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
