「リーダーシップ・ブランド」が企業の価値を決める
1.リーダーシップ・ブランドとは
世の中の変化に対応してビジネスの在り方を変えていかなければ、これからの時代を生き残ることはできません。加速度的に縮小していく日本市場だけでなく日本企業が世界で勝つための、その変革の原動力となるのが、リーダーシップを備えた人材です。
人材マネジメント分野の研究において世界的権威として知られるミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授は、「リーダーシップ・ブランド」の重要性を提唱しています。リーダーシップ・ブランドというのは、分かりやすくいうと、「優れたリーダーを大量に育成し輩出している企業」という評判のことです。
その代表企業として誰もが知っている有名なところとして、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ジョンソン・エンド・ジョンソン、P&Gなどの名前が挙がります。こういった企業でのリーダー人材育成の最大の特徴は、いずれも顧客や投資家たちの視点、すなわち、アウトサイドイン(マーケット、ビジネス、顧客の声)、言い換えれば、社内の事情に目を向けるのではなく、外部、ビジネスの観点に立って、リーダーシップ能力の開発に注力しているということです。
例えば、リーダーシップ・ブランドのある企業の代表格であるGEでは、新入社員のうちからリーダーシップ教育を開始し、リーダーシップ・パイプラインの各層においてリーダーシップ能力の開発に注力しています。多くの一流企業で、GE出身者がCEOや人事部門のトップとして活躍していることは、ご存じの方も多いでしょう。
GE出身者はエンプロイアビリティが高く他社から引く手あまたなのは、「自社の事業には詳しくなくても、GEで身につけたリーダーシップが高い価値を生む」、そのリーダーシップ・コンピテンシーが評価されているからです。ビジネスを動かし、そして、多様な人材をリードし、イノベーションを生み出すグローバルに通用するリーダーシップの基礎を身につけている、まさにリーダーシップが“ブランド化”していると言えます。
2.Better Leader, Better Future
企業価値は何で決まるのか。強い会社とは、優れたリーダーのいる会社、すなわち「リーダーシップ・キャピタル」を保有している会社と言い換えることができます。
特に、現在のようなVUCAの時代には、環境変化に合わせて事業の在り方を柔軟に見直していくことが求められます。企業ブランド(例えば、有名企業である、良い製品群を持っているなど)があって、それをつくって売っていれば利益が上がる時代ではありません。先にも述べたように、誰もが知っている日本の大手企業であっても、時代の変化に乗り遅れ、存続することに四苦八苦しています。
事業の在り方を柔軟に見直し、新たな課題に挑戦し、イノベーションを起こし、企業に利益を生み出せるリーダー人材がどれだけ組織の中にいるかで、企業の将来の業績は予測することが可能です。
ある投資会社の社長が、リーダーシップ・キャピタルの重要性について次のような話をしてくれました。
「われわれ投資会社は、投資を検討する際に、売上高や経常利益、EBIT (支払金利前税引前利益)などに関するデータは見ていたけれども、人材のデューデリジェンス(投資や企業買収をする前に行う資産価値の適正評価)はできていなかった。その企業を立て直していくのも、売り上げを上げていくのも、結局は人。その会社がどういう人材を保有しているか知っておかないと、その会社に投資する価値があるかどうか、本当のところは分からない。人材の価値を評価することは、企業価値を評価するうえで大事なテーマだと痛感している」
言うまでもなく、財務面の指標は重要です。投資家が、会社の価値を見極める際には、当然、財務の状況を見る必要があります。どういう製品を持っているか、どういうブランドを持っているかも把握する必要があります。
しかし、それだけではなく、企業価値を評価する重要な指標として、人材、特にその企業が保有するリーダーの質と量、すなわちリーダーシップ・キャピタルを見ていかなければならないのです。企業の競争力は、今や、「リーダーシップ・キャピタル」抜きには語れない時代となっています。自社のリーダーシップを“ブランド”にまで高めた「リーダーシップ・ブランド」を築くことができれば、企業が成長していく大きな力となることは間違いありません。
リーダーシップ・ブランドを築くためには、リーダーシップ・パイプラインを充足させていく必要があります。人事にとって、「リーダーシップ開発」は、経営戦略上、優先的に取り組まなくてはならない課題の一つです。
組織は、最も脆弱なリーダーシップ・パイプラインの階層以上の強い組織になることはできないと言われています(図表3)。例えば、会社は経営者の器以上にはならないと言われますが、それは、リーダーシップ・パイプラインにおけるトップ層のリーダーシップが弱ければ、組織はそれ以上にはならないということです。
逆に、CEO、エグゼクティブ層、事業部長・部長層が優れたリーダーシップを備えていても、フロントラインのリーダーシップ・パイプラインが脆弱であれば、結果として、組織は、フロントラインのリーダーシップ以上の組織にはなりません。リーダーシップ・パイプラインの問題を考えるうえで、極めて、分かりやすい概念です。
マネジメントサービスセンターが50年以上の間パートナーシップを組んできたリーダーシップ開発の専門集団であるDDI社(Development Dimensions International)が2014年に実施した「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2014|2015」(以下、GLF)によると、GLFに参加した全企業の中で、リーダーの質が高いと回答した組織は、業績上位20%に含まれる確率が6倍高い傾向があると分析しています。この分析結果から、「リーダーシップ」と「企業の業績」との間には強い相関があることが分かります。企業のリーダーの質と量(リーダーシップ・キャピタル)から、その企業の将来の業績を予測することができるといっても、過言ではありません(図表4)。
3.リーダーシップに関する大規模な調査
グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト(GLF)は、弊社のパートナー企業であるDDI社が1999年から実施している世界規模のリーダー調査で、日本ではMSCが主体となって実施しています。
第7回目のGLFでは、「The Conference Board」とタイアップし、経営トップの経営上の優先課題についても調査を並行しました。これにより多くの経営トップは、自社の人材に対する課題を、経営の最優先課題の一つに置いていることが分かりました。
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4.経営トップが悩む課題は「人材」
2014年の「The Conference Board CEO Challenge」の調査では、世界の1000名以上のCEOに対して、優先的に対応すべき重要課題を尋ねています。
そのトップ10が、以下の順位となっています。
CEOの考える重要課題の第1位は、「人的資源」です。「顧客関係」「イノベーション」「円滑な業務遂行(言い換えれば、確実な戦略実行)」は、事業の継続性と企業の未来を築くための重要な優先課題として挙がってきました。
どの業界も、これまでどおりのビジネスを続けていたのでは、生き残れません。そのため経営トップは、競合他社に先駆けて、より早く自社の製品やサービスにイノベーションを起こし、顧客に付加価値を提供することで、市場優位性を確立する方法を模索しています。
VUCA時代に経営戦略を実行し、ビジネスで勝ち続けるためには、何よりも“人材”、「人的資源」がCEOにとっての一番の課題になるのは、当然の結果と言えます。
5.CEOの人材戦略と「成功するリーダーにとって重要な特性や言動」
この20年間、リーダーシップ開発は常にCEOの優先課題として挙げられてきました。人材戦略について経営トップが挙げた上位10項目のうち、4項目がリーダーシップに関する項目でした(図表5)。
これらの項目からも分かるように、CEOの最大の関心事は、企業の戦略を実行するカギとなるシニアマネジメントチームおよび、フロントラインリーダーとマネジャーの実効性、すなわち効果的に機能することが課題だと考えています。VUCAの時代、このリーダーたちのリーダーシップをCEOは重視しています。だからこそ、将来のビジネスを牽引できるリーダーの育成(リーダーシップ開発)は、経営にとっての優先課題だということが、この結果からもよく分かります。
また、GLF調査で、成功するリーダーにとって重要な特性やリーダーシップ・コンピテンシーについて経営トップに尋ねたところ、世界共通の上位五つの回答は、以下のとおりでした。
優れたリーダーは、これらの特性を備え、優れたリーダーシップ行動を発揮し、CEOの優先課題に効果的に対処できています。
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6.日本企業は自信喪失中
「The Conference Board CEO Challenge」調査でCEOが挙げた10個の優先課題(先に紹介した10項目)に対応する準備ができているかを、GLFに参加した1万3124名のリーダーに自己評価してもらっています(図表6)。
課題に対応する準備が「かなりできている」と回答したリーダーの割合は、どの項目も半数未満でした。日本企業では2割にも達せず、1割未満の項目がほとんどと、世界のリーダーと比べて、大変厳しい結果となっています。VUCAの時代、日本企業のリーダーの多くは自信喪失の状態にあるといってよいでしょう。
人事の方たちと話をしていても、リーダー人材の不足が課題に挙がらない会社はありません。部長層の課題は、過去の成功パターンから脱却できず、新しいアプローチができないということ、課長層またはそれよりも若い世代は、これからを担う主力として早期に育成しなければならないが、新しい仕事の機会が与えられず育っていない、などです。
7.おすすめ人材アセスメントソリューション
8.グローバルポジションを獲りにいく
グローバル企業において、日本人は優秀な部下にはなれるが、グローバルポジションはとれないという事態が起きつつある。外国人、とりわけアジアの優秀なリーダーたちが、日系企業の重要ポジションを占め始めている。このままでは、日本人はグローバルはおろか、国内でも重要なポジションをとれないことが危惧される。
日本企業では、なぜリーダーシップ開発が停滞しているのか。グローバルポジションをとれるリーダー人材は、いかにして輩出されるのか――。
日本人のリーダーがグローバルで戦うために世界基準で獲得すべきリーダーシップスキル、及びリーダーシップ開発成功の要諦、人事が起こすべき変革、経営のコミットについて、具体的事例とリーダーシップに関するグローバル・データを織り交ぜながら解き明かす。
9.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
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