グローバルビジネス環境における対話力・フィードバック力の重要性
1.質の高い「対話」
日本は、ハイコンテクスト文化です。「コンテクスト」とは、対話するうえでの話す側と聴く側との間のコミュニケーションの基盤になっている共通の知識や体験、価値観などのことです。日本は、共通のコンテクストがたくさんありますから、きちんと伝える努力をせずに暖眛な表現をしても、相手が気持ちや意図を察する、いわゆる「阿吽の呼吸」が成り立つ文化です。
グローバルは経験・知識・価値観・人生観・倫理観、その他宗教や歴史などすべてが異なり、コミュニケーションの基盤に共通のコンテクストはほとんどありません。そして、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」も持っています。グローバルは、日本とは対極のローコンテクスト文化です。
多様性に富んだチームの中で「人を通じて成果を出す」ためには、言葉にしてきちんと相手に伝えて分からせることが重要になります。例えば、先ほど紹介したアカウンタビリティを課す場合でも、暖昧な言い方ではなく直接的で分かりやすく説明する必要があります。
リーダーシップの基盤となるのは、「対話」です。第2章で紹介したシンクロナイズドスイミングのチームを率いた井村コーチは、世界で勝つために選手一人ひとりに厳格にアカウンタビリティを課しました。しかし、井村コーチと選手との間には、絶対的な信頼関係が築かれていました。それは、井村コーチが、一人ひとりの選手と質の高い対話を行ってメンバーを鼓舞し、モチベーションを高め、コーチから認められていると感じられるように、そういった選手の気持ちに届く言葉で相手に伝えていたからです。「リーダーシップは対話である」と言っても過言ではなく、リーダーの優れた対話力は大きな変化やイノベーションも生み出します(図表11)。
日本のリーダーには、「日本人でない人々にも通用するコミュニケーション=対話力」の向上が必要で、そのスキルは、訓練を通じて習得することができます。リーダーシップの基盤となる質の高い対話とはどのようなものか、DDI社が行動心理学の理論に基づいて開発し、長年のデータで、その有効性が実証されている、世界で共通に通用する対話のスキームをご紹介します。
2.「タスクニーズ」と「ヒューマンニーズ」
対話をするときの相手には、「タスクニーズ」(仕事を成し遂げたい)と「ヒューマンニーズ」(人として尊敬され、認められたい)があります(図表12)。
「タスクニーズ」とは、対話の目的のことです。ビジネスの対話には、必ず目的があります。例えば、「アカウンタビリティを課す」「目標を設定する」「問題の原因を特定して解決する」などといったことがそれにあたります。ビジネス上の目的を達成するためには、話し合いを効率的・合理的に進めていく対話のスキルが重要です。
ローコンテクスト社会では、暖昧な言い方ではなく直接的な表現でないと意図は伝わりません。論理の飛躍も嫌います。事実を積み上げて、論理的な話し合いをすることも重要です。率直かつ直接的な質問をすることも重要です。そして、質問には、回りくどい回答ではなく直接的に回答することも重要です。
一方、「ヒューマンニーズ」は、対話をする相手の心理的な欲求です。「もっと話を聴いてほしい」「もっと認められたい」、あるいは「対話の相手を信じたい」「信頼されたい」「意見を述べたい」といった、一人ひとりが抱く心理的欲求の総称です。心理的欲求は、人であれば誰しもが持っているものです。大事なことは、対話の中で、相手のヒューマンニーズに、“的確な言葉”で応えるということです。
ローコンテクスト社会では、言葉で伝えられたことによって、相手は心理的欲求を満たされたと感じます。ヒューマンニーズは、対話における人間関係の土台となるものなのです。相手との距離感を近づけ心を開いた対話を促進するためには、ヒューマンニーズに応えることは重要です。「尊敬してくれていない、認めてくれていない」「話を聴いていない」「信頼されていない」などと相手が感じた瞬間に、対話は発展することはなく、収束してしまいます。
ハイコンテクスト文化の日本のリーダーは、相手のヒューマンニーズ(心理的欲求)を感じていても、それを言葉にして相手に伝わるように表現していくことは訓練されていませんから、上手ではありません。
ローコンテクスト社会の多様性に富むメンバーに対しては、対話の中に「タスクニーズ」と「ヒューマンニーズ」との両方を、相手に伝わるように「言葉」として的確に届けるという責任がリーダーにはあります。
3.おすすめ人材アセスメントソリューション
4.グローバルポジションを獲りにいく
グローバル企業において、日本人は優秀な部下にはなれるが、グローバルポジションはとれないという事態が起きつつある。外国人、とりわけアジアの優秀なリーダーたちが、日系企業の重要ポジションを占め始めている。このままでは、日本人はグローバルはおろか、国内でも重要なポジションをとれないことが危惧される。
日本企業では、なぜリーダーシップ開発が停滞しているのか。グローバルポジションをとれるリーダー人材は、いかにして輩出されるのか――。
日本人のリーダーがグローバルで戦うために世界基準で獲得すべきリーダーシップスキル、及びリーダーシップ開発成功の要諦、人事が起こすべき変革、経営のコミットについて、具体的事例とリーダーシップに関するグローバル・データを織り交ぜながら解き明かす。
5.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント