【漫画感想】 #1 外道の歌
ついに終わってしまった。
最高にエグくて読むのが辛い、名作漫画が終わりを迎えてしまった。
その名も「外道の歌」。
今回は、まさにアングラと呼ぶべき "復讐" をテーマにした名作漫画ついて紹介したいと思う。
外道の歌(善悪の屑) 概要
当初は「善悪の屑」という名前で少年画報社『ヤングキング』2014年10号から2016年7号まで連載された作品が、第二部として継続連載されたものが「外道の歌」である。善悪の屑は全5巻。外道の歌は全15巻。作者は渡邊ダイスケ。
ちなみに、一度は「善悪の屑」で映画化が進み公開目前だったが、直前にして出演俳優 新井浩文の逮捕により公開が急遽中止に。現在でも公開はされていない。これはかなり悲しかった。実写映画を見たかった。
外道の歌(善悪の屑) あらすじ
強盗、殺人、強姦など人の道を外れた行いをしながらも、法の網目を逃れて生き永らえる屑がこの社会には確かに存在する。
外道の歌はそんな屑たちに復讐の念を募らせた人が訪れる、とある古本屋の物語。
古本屋は 主人公であり店主の "カモ" 、相棒"トラ"の2人の男が切り盛りする。この古本屋の裏の顔は復讐代行屋であり、依頼を受けたカモとトラの2人がこの世の屑たちへ、狂気に満ちた断罪を遂行していく。
淡々と続く復讐の日々、その果てにあるものとは---。
外道の歌(善悪の屑) の魅力
まずこの作品で登場する屑たちは、正真正銘のクズだ。
救いようのないクズたちばかりで、彼らの犯行シーンは本当に胸糞が悪いので耐性のない人は要注意である。
屑たちの中には実際にあった事件を題材としていると思われるものも多くある。例えば「尼崎連続変死事件」「女子高生コンクリート詰め殺人事件」「附属池田小事件」「スーパーフリー事件」など、犯罪史に名を残すものばかりだ。
この辺りをそのまま作品に反映しているところに、作者の"復讐"というテーマへの本気度が伺える。生半可な気持ちでは、これからの事件を漫画作品中に扱うことなどできないと思うからだ。
それこそ、これだけの重い事件を扱いながら「スカッとする復讐劇」などという軽いものに着地させたら下品な作品だと叩かれても仕方がないだろう。
ただ、この作品はただの復讐漫画ではなかった。
まず復讐を代行する カモとトラ のバックグラウンドが丁寧かつ濃密に描かれている点が他の復讐漫画と一線を期す点だ。
2人に共通するのはまさに屑によって、それぞれ家族・母親という大切なものを失う経験をしている。この経験が彼らを突き動かす原動力だ。
ただ、彼らの原動力には法にも頼れない屑たちの被害者の無念を晴らす、という正義感という側面もあったのかもしれないが、外道の歌では話の終わりごとに独特の余韻がある。
これは彼らの原動力が純粋な正義感だけではないということの表れである。ただのスカッとでは終わらない感覚が、まさにカモとトラの心理状態を表している。
2人とも根は善性の性質を持っているが故に、正義感だけでは割り切れない”復讐”という行為への矛盾と虚無を感じていたのではないだろうか。
ただ彼らが踏み入れた "復讐の輪” からはそう簡単に抜けられない。
この復讐が持つジレンマと空虚な世界観を絶妙に演出している点が、外道の歌の1番の特徴ではないだろうかと思う。
時に被害者の1人である女の子と、カモとトラと3人が仲睦まじい生活風景を描写したりするなど「彼らが失ったはずの暖かさ」のようなものを時折織り込むあたりが、より復讐の虚無を映えさせるのだ。
そしてそんなコントラストをより強めるのが、凄惨な復讐シーンだったりする。
正直これらは想像を絶するものばかりだが、このシーン自体が見どころというより、やはり復讐の虚無との対比を描くためのものではないかと思うのだ。(もちろん、こんな復讐よく思いつくな…というものばかりではあったのだが)
そんな淡々と、悶々と続く復讐の日々に転換点を加えるのが同じ"復讐代行”を行う組織団体 「朝食会(ブレックファストクラブ)」だ。
この団体が登場してから物語は急展開、そして最終章へと緩やかに突入していく。この団体はまさにカモたちと異なる思想を持った"復讐"を行うからだ。
その内容はここでは言い控えるが、こうした団体との関わりを経て、徐々にカモやトラが自ら抱えるジレンマと復讐へのケジメを意識していくようなるのだ。
ラストはまさに自分たちがたどり着く境地(ゴール)と一つの答えを出した、という内容であったと思う。
個人的には胸を空くようなじんわりしたものが込み上げるようなラストだった。
復讐の輪の果てに人は何を見出すのか。
胸糞な内容が降り注ぐ中で、しっかりと骨太な問いに向き合い続けた「外道の歌」という作品に出会えたことを心から感謝したいと思いました。
寂しいけれど、最高の作品でした。
最高のアングラ漫画です、まだ読んだことがない人はぜひ読んでみてください。
では、また。ここまで読んでくれた方ありがとうございました。