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アガサ・クリスティー『検察側の証人』Witness for the Prosecution(1954)紹介と再読感想
アガサ・クリスティー 加藤恭平訳『検察側の証人』早川書房,1980
あらすじ
エミリー・フレンチ殺害容疑で逮捕されたレナード・ボウル。
勅撰弁護士であるウィルフリッド卿は、レナードの明け透けな態度に好意を抱き、無実であろうと考え弁護をすることにする。
レナードの妻・ローマインと初めて面談した時に、何やら不穏なものを感じたウィルフリッド卿。
裁判当日、事件担当警部やエミリーの家政婦ジャネットなどの証言が終わり、最後に検察側の証人として出てきたのは、ローマインだった。
果たして、ローマインは法廷で何を語るのか。裁判の行方はいかに……。
紹介と感想
1925年の短編『検察側の証人』を、クリスティー自身の手で戯曲に仕立て直した作品です。
クリスティーがしっかり準備をして書いただけあり、力のこもった法廷劇の傑作となっています。
原作は事務弁護士のメイハーンが主役で法廷場面は殆ど描かれませんが、戯曲では裁判の場面が見どころになっています。
芝居の半分以上を占める裁判シーンは、観客を実際の裁判に居るように錯覚させるリアリティを持っていながら、物語としてしっかり起伏を演出しています。
この裁判がどのように決着されるのかという法廷劇としての面白さに加え、クリスティーは更に楽しんでもらおうというサービス精神旺盛な趣向も盛り込んでいます。
硬質な裁判劇に、驚愕のミステリー要素、そして深い愛を描いた物語。これらの要素に程よいユーモアも適度に組み込み、上質なエンターテイメントになっています。
戯曲の性質上、実際に演じられているものを観る方が十全に楽しめる作品ですが、文字で読んでも中編分量の法廷劇エンターテイメントとして楽しむことができます。
また、数あるクリスティーの戯曲の中でも特に人気の作品なので、日本でも上演されることが多く、傑作とされる映画もあるため、比較的演じられているものが観やすい作品にもなっています。
映像化
短編小説を原作にした映像化と、戯曲を原作した映像化。それぞれに複数の映像化があり、企画だけで終わってしまったものも複数ある、クリスティーの中でも映像化に人気の作品です。
短編小説原作
『Witness for the Prosecution』(1949/英/BBC)
ローマインを演じたメアリー・ケリッジは、ジョーン・ヒクソン主演『予告殺人』でスウェッテナム夫人を演じている。
『Witness for the Prosecution』(1949/米/NBC)
『Witness for the Prosecution』(1950/米/CBS)
『Witness for the Prosecution』(1953/米/CBS)
『検察側の証人』(2016/英/全2話)
演出:ジュリアン・ジャロルド
脚本:サラ・フェルプス
短編小説をベースに、かなり濃いオリジナル要素で味付けした作品になります。
ミステリー部分は原作を踏襲していますが、視聴者をメイヒューと共に鬱に陥れるオリジナルの仕掛けが施されています。
その他、メイヒュー周りの物語は全てドラマオリジナルであり、サラ・フェルプス脚本らしい人間の悪意に根差しているようなシリアスな内容となっています。
個人的には、このサラ・フェルプス脚本特有のオリジナル部分の味付けが濃すぎな上に、あまりにもクリスティーらしくない物語なのでちょっと苦手です。
しかし、トビー・ジョーンズの演技はかなり良かったので、気持ちが沈んでも大丈夫なくらい精神的に安定した時に、弁護士を主人公にしたオリジナルドラマを観る気持ちで挑むのが良いと思います。
ジョン・メイヒュー/トビー・ジョーンズ(田村勝彦)
ロメイン・ハイルガー/アンドレア・ライズバラ(園崎未恵)
レナード・ヴォール/ビリー・ハウル(細谷佳正)
エミリー・フレンチ/キム・キャトラル(勝生真沙子)
チャールズ・カーター卿/デヴィッド・ヘイグ(塾一久)
戯曲原作
『情婦』(1957/米/116分)
監督:ビリー・ワイルダー
脚本:ビリー・ワイルダー、ハリー・カーニッツ
クリスティーファン以外にも『検察側の証人』の名前を広めた傑作映画になります。
筋立ては原作を忠実に活かしながら、ウィルフレッド卿とブリムソル看護婦のやり取りを中心に、ビリー・ワイルダーらしいユーモア要素が加わっており、観ている者を飽きさせません。
敢えてモノクロで撮った画面も雰囲気が出ており、素晴らしい演技をする役者陣を更に魅力的に映しています。
ちなみに、ウィルフレッドを演じたチャールズ・ロートンは、1928年の戯曲『アリバイ(原作:アクロイド殺し)』で世界で初めてエルキュール・ポワロを演じています。
レナード・ヴォール/タイロン・パワー
クリスチーネ/マレーネ・デートリッヒ
ウィルフレッド・ロバーツ/チャールズ・ロートン
ブリムソル看護婦/エルザ・ランチェスター
マイヤーズ/トリン・サッチャー
ブローガンムーア/ジョン・ウィリアムス
メイヒュー/ヘンリー・ダニエル
『検察側の証人』(1982/米/101分)
演出:アラン・ギブソン
脚色:ビリー・ワイルダー、ハリー・カーニッツ
脚本:ジョン・ガイ
映画版の脚本をベースに作られており、ドラマの作りも基本的には映画のテレビドラマ版と言う感じです。
そのため、楽しみ方としては演出や役者による違いを楽しむのが一番だと思います。
当然カラー作品なので、カラーで『検察側の証人』を見たい際にも良いと思います。
映画とのちょっとした違いとして、家のエレベーターが普通のエレベーターになっていました。
クリスティンを演じたダイアナ・リグは、同年『地中海殺人事件』でアリーナ・マーシャルを演じています。
ウィルフレッド・ロバーツ卿/ラルフ・リチャードソン
ブリムソル看護婦/デボラ・カー
クリスティン・ヴォール/ダイアナ・リグ
レナード・ヴォール/ボー・ブリッジス
マイヤーズ/ドナルド・プレザンス
マッケンジー/ウェンディ・ヒラー
メイヒュー/デヴィッド・ラングトン
カーター/ピーター・サリス
『Khara Sangayach Tar』(2004/印)
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