吉本ばなな『スナックちどり』
吉本ばなな『スナックちどり』(文春文庫)
何のために本を読む?
そんなことを"考えなくて良い"本に久しぶりに出会ったなぁ、というのが読了後の感想だった。
夫と上手くいかず離婚し、さらに無職になった主人公の「私」と
両親の代わりに小さいころから面倒を見てくれた祖父母を亡くしたいとこの「ちどり」の海外二人旅。
それぞれの理由で傷付いた二人が、イギリスの孤独な街でゆっくり過ごし、飲み、食べ、時には淋しさを埋め合って傷を癒そうとする物語だ。
傷が癒えるためにはどうしても時間が要る。
楽しい時を思い出して、失ったものを惜しんで悲しみに暮れたり、傷付いた時を思い出してこれで良かったんだと納得したりする作業も要る。
いとこという血のつながった間柄だからこそ、絶妙な距離感でお互いを癒し合い励まし合う。
海外という気の張る環境にもかかわらず二人はリラックスしていて、寄り添いながらもお互いの喪の作業に没頭している感じがした。
「スナックちどり」というタイトルから、イギリス二人旅はなかなか連想されない。
(なぜそんなタイトルなのかは読んだらすぐにわかるのでお楽しみにとっておく)
スナックはキャバクラよりも時間がゆったりしていて、女性も入りやすくて、ママに愚痴を聴いてもらったりカラオケを歌ったりして女性も楽しく過ごせる場所というイメージで、ゆるさと色気と淋しさが絶妙に入り混じった空間が物語にもあらわれているなぁと感じた。
私、次はなにがしたいんだろうな。
そう思っても、特になにも浮かばなかった。
自由なのに、ちっとも嬉しくない。心が広がらない。目の前はだだっ広い海なのに。
でも、そんなのでいいや、と思った。別にこわくない。いつまでだってこんなふうでも別にいいや。
まだ生きているんだもの。味わっているもの、景色を。
私の目が勝手に生きてる。
心は動かなくても、私は笑っているし、歩いている。
そのことにどんなに救われるか。そう、ちどりのそうじと同じように。目的はなく、目標がない行動が、どんなに楽にしてくれたか。
(100頁)
この箇所がいちばんわたしの琴線に触れた。すごく納得した。
自己実現や成長のための読書じゃなくて、疲れたときのビールとラーメンみたいな癒しの読書もたしかにあるのだ、と実感した。
それを実感できてとても嬉しかったし、個人的なことだがわたしはいろいろと傷付いていたんだなぁ、と再認識させられた。
いま、何かに傷付いている人には刺さるものがある一冊だと思う。
同時にとても癒される一冊になるはずだ。
本書を読んで、わたしも"スナックまりちゃん"みたいな存在になりたい、とひそかに思った素敵な一冊だった。
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お久しぶりの更新になりました…(*_*)
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