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#3.ビルバオに学ぶ地方都市のマーケティング
こんにちは。オオツカです。
第3回はスペインの地方都市ビルバオから学ぶ地方都市のマーケティングについてお伝えしていきたいと思います。
地方都市観光って楽しいですよね。これまで行った中で一番良かった地方都市はずばり長崎です。オオツカ自身長崎にルーツがあるからなのか何度でも行きたい地方都市ですね。食べ物も美味しいですし。
そういえば昔、海辺の観光地には必ずと言っていいほど空を飛び回るトンビに買ったばかりの角煮バーガーを狙われたことがあります。言わずもがな無残にも私は一口も食べられずに角煮バーガーを奪われてしまったのでした。苦い思い出です。
そんな話は置いておいて、本編へいきましょう。
日本の地方都市の抱える問題点
まずは、地方都市のマーケティングを語る前に日本における地方都市の定義についてお伝えすべきかと思います。Wikipediaによると以下のように定義されているようです。
地方都市(ちほうとし)とは、
首都以外の都市、あるいは七大都市圏以外の都市。福祉医療機構では札幌圏、仙台圏、東京圏、名古屋圏、関西圏、広島圏、北九州・福岡圏以外の都市を地方都市と定義している。
地方都市の人口減少問題
日本における地方都市は「東京への一極集中」「疲弊」にともない様々な社会問題を抱えています。中でも若年層人材の都市圏への流出は代表的な課題として昔からよく取り上げられていますよね。実際に若年層の人口が流出し経済力が低下することで以下のような問題を引き起こしています。
・移住や交流の停滞
・魅力ある雇用先の減少
・企業の人手不足
・公共施設の過不足(設備維持が困難に)
・観光客の動態把握の困難
地方都市の課題のみにフォーカスをあてて包括的な課題解決を図ることは本来的な課題解決にはならないのですが、ここでは地方都市の課題解決方法についてマーケティングの観点からアプローチしていきたいと思います。
世界的に日本は都市圏に人口が集中しすぎ?
そもそも日本は世界的にみても都市圏に人口が一極集中しています。
United Nations "World Urbanization Prospects The 2014 Revision"によると2014年時点ですでに日本の「首位都市への人口集中度」は世界4位です。
特に東京圏への一極集中は顕著です。東京へ一極集中する主な要因はいくつかあります。例えば大学卒業者はより高い収入を得るために大企業の集まる東京へ流出するでしょうし、東京は流行の中心地でもありますから地方都市で得ることはできない魅力や体験機会に溢れています。
そんな首位都市に対し、地元の人しか知らない魅力で外部から人を呼び込めますか?地方都市の強みや弱みを知らないのに大企業を誘致できますか?
きっと難しいはずです。
ではどのようにして優秀な人材、ひいては若年層を地方へ流入させることが可能となるのでしょうか。
地方都市のマーケティング戦略
ここからは地方都市が取るべきマーケティング的な戦略(思考)とスペインの地方都市ビルバオの成功事例についてお伝えしていきます。
都市こそSTP、SWOT分析
あなたはある地方都市の市長だったとしましょう。あなたの都市も他の地域と同じく七大都市圏への人口流出が喫緊の課題です。なんとかして地域を盛り上げたい。この時あなたは何から着手しはじめますか?
さて、ここからはマーケティング的なお話です。
多くの日本の地方都市がまず行うべきこと、それはSTP分析(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)とSWOT分析(強み[Strengths]、弱み[Weaknesses]、機会[Opportunities]、脅威[Threats])であるとオオツカは考えます。
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企業のマーケティング活動においてよく使われるフレームワークですが、地方都市においてもこのフレームワークを用いた思考方法は有効であると考えます。(ここではSWOTとSTPの説明は省略しておきます)
まず地域を活性化させるためには新たな雇用を創出し、財政を維持し経済を発展させる必要があります。新たな雇用を創出するには新たに企業の誘致を図る必要がありますね。しかし企業を誘致するために最も必要なこと、果たしてそれはなんでしょうか。
ずばり企業を誘致するための土壌、つまりは競争優位のサプライチェーンを用意することです。企業はつねに他の都市とつながり、サプライチェーンを効率的に機能させたいと考えています。
そこで地方都市がサプライチェーンを用意するための最初の一歩としてSTP分析やSWOT分析のフレームワークを利用します。
・ 都市を活性化させる目的は何か
・ どんな都市にしたいのか(産業都市/金融都市/観光都市など)
・ どんな人のためにそれを実現するのか
・ 強みとしての地域のリソースはなんなのか
・ 他の地域と比べた時の弱みは何か
etc.
どんなマーケティングにも言えることですが、自身のエンドユーザーに対する役割と自身の成長性の必要性を知ってはじめてマーケティング活動やブランディング活動に取り組めるのです。
Webサイトを綺麗にしたり、とにかく情報コンテンツを増やしたり広告宣伝を大量に打つことは本来的なマーケティングではありません。
ミクロ環境とマクロ環境をSTPやSWOT分析で明らかにし、自身の競合優位性を明確にすることで新しい価値を生み出せるようになりますし、マーケティング戦略の土台を作ることができるのです。
では、具体的に何を分析すればよいのでしょうか。フィリップ・コトラーの著書『コトラー マーケティングの未来と日本』の一節には分析に際して考慮すべき11の要因について以下のように記されています。
都市は自らの強みと弱みを分析し、現実的になるべきなのだ。〔中略〕
そこで考慮すべき十一の要因について、詳細な分析を行った。すなわちそれは、規模、地理的条件、ロジスティクス、インセンティブの予算、産業クラスター(新事業が次々と生み出されるような事業環境を整備することにより、競争優位の産業が核となって広域的な産業集積が進む状態)、サプライチェーン能力、中央政府の政策、社会の安定性、政治家と市民のリーダーシップ、制度の強さ、商業的強さだ。
時代に先回りする戦略をどう創るか』
フィリップ・コトラー著
地方都市において人口減少の課題解決の糸口は「現状分析とマーケティング戦略」にあるかもしれません。
ビルバオが地方都市再生の糸口
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ここにきてようやく今回のメインテーマ、ビルバオです。
ビルバオとはスペインのバスク地方に位置する地方都市です。1920年代にはスペインの中でも重要な地位を占めていました。その後紆余曲折ありながらもビルバオは工業都市として人口を増加させていきます。しかしながら1980年代にはテロリズムや外国からの安価な労働力の到来などのいくつかの要因によって産業危機、産業空洞化の時代が訪れることとなります。
そんなビルバオですが、1990年代にはインフラや都市活性化への投資を積極的に行い、サービス都市としての都市運営が始まります。
例えば1997年にはアメリカの建築家、フランク・ゲーリーによって「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」が開館しましたし、その他にも美術館の開館を皮切りに以下のような建造物がビルバオの都市計画のもとで建てられました。
エウスカルドゥナ国際会議場・コンサートホールの開館、サンティアゴ・カラトラバによるスビスリ橋の開通、ノーマン・フォスターによるメトロ・ビルバオの開業、ビルバオ・トラムの開業、イベルドローラ・タワーの竣工、ソロサウレの開発計画などがグッゲンハイム美術館の開館に続いた。
ビルバオはいまでは最も前衛的な都市の一つとして数えられる程の地方都市となりました。工業都市から観光都市へと自身の持つリソースを切り替えたことで成功した地方都市の活性化における最たる事例かと思います。ちなみにこのように都市計画が成功した様子を表す言葉としてグッゲンハイム効果(英語: Guggenheim Effect)と呼ばれるそうですよ。
ビルバオでしか提供できない価値
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当時、ビルバオには美術館に入れるアート作品がなかったといいます。しかしながら美術館そのものを観光資源として捉え、美術館を最高のアートとして建築・演出したことが成功要因の一つとして知られています。
この美術館をみるために世界の富裕層がこぞって飛行機をチャーターするほどの人気だったそうです。
「他の都市よりも秀でている分野を有していることが必要」であるとビルバオの事例からは学べるかと思います。成功を導いたのは積極的な広告キャンペーンでもなければ、ホームページリニューアルでもありません。人の目を引きつけるためのいわゆる「ストーリーとしての競争戦略」が成功を導いたとも言えるでしょう。
ビルバオは「そこにしかない価値をどのようにしてつくるか」を考え抜くことを重要視していました。そこでしか得ることのできない体験や価値があるからこそ、人は集まります。それは首位都市だけでなく地方都市だとしてもです。
地方都市再生を図るための思考
前述した通り、日本の地方都市はまさに「そこにしかない価値をどのようにしてつくるか」を考え抜く必要があります。この思考こそがマーケティング戦略の土台となるからです。この思考を実現するためのフレームワークとしてSTP分析やSWOT分析を実践すべきであると考えます。
ビルバオの成功事例のような思考方法を実践しない限り、そもそも誰に向けてマーケティングキャンペーンを立ち上げるべきかすらわからないはずです。
加えて、ビルバオの成功は政治家や役所に依存して成し遂げたものではありません。市民のリーダーシップも不可欠であったはずです。コトラーが上げた11の要因の一つとして言及されていますが、市民の協力は地方都市再生を成し遂げるための非常に重要な要素です。
冒頭にも書いたとおり、日本では若年層の流出による地方都市と首位都市の様々な格差が年々広がっています。
地方都市の活性化をするにはスペインのビルバオをはじめ世界の地方都市の成功事例(例えば新たなサプライチェーンの創出や資源の切り替えによる成功など)を見渡すことで、それを学び実践できることがあると思います。さらにより実践的なマーケティング的な思考が地方都市活性化の糸口であるとオオツカは考えています。
さて、若干歯切れが悪いですが、ひとまずこのあたりで切り上げます。
まだまだ様々な切り口で地方都市活性化のためのマーケティングについて書けそうなので気が向いたらまた似たようなテーマで記事化したいなと思います。
ではまた次回でお会いしましょう!