褒めることは叱ることの100倍難しい〜褒める指導を考えよう〜
こんにちは。特別支援学級教員13年目のMr.チキンです。今日は次男の3歳の誕生日でした。ボーナス日の次の日に生まれるという要領の良い次男は、愛嬌たっぷりです。3年前のことを思い出しながら妻とお酒を飲みました。
今日は、「褒めることは叱ることの100倍難しい」ということについて、特別支援学級教員の視点から掘り下げたいと思います。
教員のもつ、二つの武器
教員は、二つの武器をもって子どもたちの前に立ちます。
それは、”褒める”と”叱る”です。
この二つを使って、集団を育てていきます。
どちらもバランスよく扱っていくことが必要ですが、教員をしていると、世の中には”叱って育てることが良い”と捉えている教員が多いことに気付きます。
「叱って育てる」は難しくて、「褒めて育てる」は甘やかし?
叱って育ててる人たちは、常に疲れています。なぜなら大きな声を出さなくてはいけないですし、常に気を張り詰めていないとクラスにほころびができるからです。そういう人たちは
と考えています。事実、私は何度も「ずいぶん甘やかして育てたから、躾がなっていない。」とおしかりを受けました。
「叱って集団を作る」の脳科学的なリスク
”叱る”ことで、集団を作っていくという方法にもメリットはあります。
叱ると、子どもたちが比較的すぐに言うことを聞くようになります。
「なぜ子どもたちが言うことを聞くのか」というメカニズムを、脳科学で分析してみましょう。
子どもたちは叱られると、”怖い”という感情をもちます。
”怖い”という感情は、”大脳辺縁系”という脳の中心部分で感じる原始的な感情です。
原始的な感情をコントロールするわけですから、子どもたちは比較的すぐに統率のとれた集団になります。
ただ、問題なのは、前頭葉・前頭前野が育っていないということです。
自分の気持ちで制御しているわけではない行動ですから、教員が代わると
とたんに統率の取れない集団に早変わりします。
という時の原因の半分くらいは、そういった事情だといっても過言ではありません。
”叱って育てる”という教育活動には、統率者が代わった時に集団の抑えが利かなくなるというリスクが常に存在するのです。
”褒める”という難しさ
なぜ、叱る方法をとることが多いかというと、”褒める”という方策は、集団が育ってきたということを実感するまでに時間を要するからです。教育困難校と言われる学校では、すぐに立て直すということが求められているような気がしてしまいます。
保護者の目
同僚の目
管理職の目
などを気にして、集団を作ろうと、ついつい口調が激しくなっていってしまう気持ちはよく分かります。
そして、”褒める”という教育活動は、とても難しいです。
感覚としては100倍難しいと言えます。例えば、
という行動ばかりをする子も中にはいます。
もちろん、そのような子にも褒めるところは必ずあります。
私は、特別支援学級教員として、以下のような手立てをとって、褒めるタイミングを見付けています。
褒めて育てるためのその①:スモールステップで褒める回数を増やす
特別支援教育の指導方法の中で、よく、”スモールステップで指導していきましょう。”という表現をよく見かけます。例えば、縄跳びの指導で言えば
一点を見つめながら、その場で跳ぶ練習をする。
縄を床に置いたままにして、その上を跳ぶ練習をする。
教員が揺らしている縄をよく見て、その上を跳ぶ練習をする。
縄を片手でもち、手首だけで回す練習をする。
縄跳びを二つに切り、両手で持って回す練習をする。
走り跳びの練習をする。
縄跳びの真ん中にタオルを付けて、弛まない縄を跳ぶ練習をする。
縄跳びの真ん中にひもで印をつけて、跳ぶタイミングを図る練習をする。
「タンタン」跳びの練習をする。
「タン」跳びの練習をする。
という細かいステップを作ることで、子どもは縄跳びをすることができるようになります。
これは、子どもにとっては”見通しをもつための手立て”ですが、教員にとっては”褒めるチャンスを作るための手立て”になります。
「1が終わったら褒める」「2が終わったら褒める」「3が終わったら褒める」・・・
では一回しか褒めることはできませんが、スモールステップに分けると、たくさんの回数褒めることができるようになります。
褒めて育てるためのその②:待つ
褒めることの難しさに、”待たなくてはいけない”ということがあります。
特に、子どもが小さかったり、発達がゆっくりだったりすると、
教育効果がすぐにはでないこともあります。
褒めるためには、教員側が見通しをもつことが必要です。
だから、特別支援学級の教員は、個別の指導計画を作って目標を設定するのです。
大まかなものでも良いので、”この子は将来的に○○ができると良いな。”という計画を立てると、
という心の余裕をもつことができます。
褒めて育てるためのその③:叱る条件を決める
では、”叱る”は必要ないのかというと、そうではありません。
良くないことに関しては叱って気付いてもらう必要があります。
ただ、やみくもに叱るのでは逆効果です。
上記の記事の中で、
こんなリストを紹介しました。
教員が怒るというのを予測させ、自分からコントロールする
ということと、
叱られてコントロールされる
ということは大きな違いがあります。
自らを律する力を付けるためにも、このリストはおススメです。
と、一つ褒めるきっかけも作ることができます。
何のために学校に来ているのか
褒めるは難しいけれど、とても有効です。
通常学級に、教室を飛び出してしまう子がいました。
記録していったところ、週27時間ある授業時数のうち、25コマで教室離脱がありました。
1週間で2時間教室にいることができれば良い方だったのです。
怒られるから出ていく
出ていくから怒られる
という負のスパイラルで、彼の心はボロボロでした。
その子が特別支援学級に転籍したとき、同僚と話し合い、
というシンプルな方針を立てました。
私たちが褒めていると、少しずつ周りの子がAくんを褒めるようになりました。面白い発見でした。子どもたちは褒めるのをマネするのです。
Aくんはその気になります。気付けば、教室にいるのが当たり前になりました。特別支援学級の友達はAくんが頭の良いことに気付き、放課後に公園で遊ぶ際のリーダーと認識するようになりました。
”褒める”というリズムにもっていくだけで、Aくんを中心にクラスの子たちの表情が明るくなっていったのは、私にとっても”褒める”という教育活動を送る上での自信となりました。
上記の3つの手立ては、その子と、ともに学んできた同僚から学ばせてもらった方法です。もしよろしければ使ってみてください。
では、またね~!