おもむろにえいえんをさけぶための練習メソッド(詩)
声。叫べば叫ぶほどにはずれ、ずらされていく音程の連続でしか、うまく歌うことのできない歌曲があった。ステージに針を落とし、柱時計の絶叫ではじまる伝えきるためのカーテンコール。おなじ手の叩きかた、おなじ喉のふるわせかたで、おなじだと伝える。みんなおなじえいえんだ。
苦しみのないピアノもある(あった、そうであった)苦しまずに記されたリタルダンド(<)、おもむろに強く、おもむろにリズムを間延びさせ、ここは安全だと伝える。安心してわたしたちの距離をゼロへ置き変え、一秒を百年に引き延ばす。脈拍をモチーフにしたメトロノームの、一小節に一度のペースで告げられる「あなたたちは乱れている」描かれるはずだった白紙のうえの。
傷つきながら歌われる、十本の指のための練習メソッド・・・・・・バイエル、ハノン、ソナチネ。黄金のままに、苦しみを苦しみのままに歌いきるためのピアノ。おなじであるということを、おなじままに、確かめあうための。ここにいたくないと、うつくしく叫ぶための。
タオルケットをかばんにつめ、つぎの駅へと向かうとき、生まれるべきでなかったパターンは完成に飢えている。傷みと時間の関係。路上で、車内で、 コンコースで。人いきれのなかでわたしは、そう、その……わたしのいきものを、つぶされないように守りつづけた。歩きつづけなければいけなかった。えいえんではない香りのなかで、おなじようにえいえんであろうと。転ばないようにはずれつづけた。
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